「重力」でエネルギーを蓄える未来の電力貯蔵システムに注目!

 おもりを高く持ち上げるだけ

 

重力でエネルギーを蓄える未来の装置
重力でエネルギーを蓄える未来の装置 / Credit:Energy Vault

 

現在、スイスのEnergy Vault社やイギリスのGravitricity社などのいくつかの企業は、重力を利用した「新しいエネルギー貯蔵システム」に注目しています。

これは余剰電力によっておもりを持ち上げ位置エネルギーを保持し、必要な時に落下させて電力を生み出すというもの。

現在は開発中ですが、完成するなら世界中のあらゆる場所で膨大なエネルギーを貯蔵できるようになるでしょう。

 

目次

エネルギー貯蔵の必要性と揚水発電のデメリット

発電方法の中には、発電量を細かく調整できないものがあります。

特に原子力発電は継続的に運転したほうが効率的なため、電力需要が小さくなる夜間にはどうしても余剰電力が生じます。

もちろん、バッテリーにそれらの電気を貯蔵しておくことは技術的に可能です。しかしエネルギーの損失やそのために必要な莫大な費用を考えると現実的な方法だとは言えません。

それでも大規模な停電などに対応するには、どこかにエネルギーを貯蔵しておかねばなりません。

そして、これまでエネルギー貯蔵設備として活躍してきたのが「揚水発電」です。

余剰電力を利用して水をくみ上げる
余剰電力を利用して水をくみ上げる / Credit:Σ64/Wikipedia

これは、余剰電力を利用して下部貯水池から上部貯水池へ水をくみ上げて保持しておく方法です。

そして電気が必要になったときには、上部貯水池から下部貯水池へ水を流すだけですぐに発電可能。

このように揚水発電とは、余剰電力を水の位置エネルギーに変換して貯蔵する斬新なシステムだったのです。

上部貯水池の水を解放して発電可能
上部貯水池の水を解放して発電可能 / Credit:Σ64/Wikipedia

しかし、この揚水発電にもデメリットがあります。特殊な地理的条件が必須なのです。

実際、揚水発電が成り立つには2つの大きな貯水池が必要であり、その垂直距離は離れすぎても近すぎても駄目です。

新しい貯水池を建造することもできますが、簡単ではありません。

そのためいくつかの企業は、どんな地理にも対応可能な「新しい位置エネルギー貯蔵システム」を開発しようとしており、その実現はもうすぐだと言えます。

 

未来の位置エネルギー貯蔵装置①Energy Vaultタワー

Energy Vaultタワー
Energy Vaultタワー / Credit:Energy Vault

Energy Vault社が提案している位置エネルギー貯蔵装置は、水ではなく、巨大なブロックを上下させることで貯蔵・発電します

巨大なタワーには6つのクレーンが付いており、それぞれがブロックを掴めます。

クレーンがブロックを降ろす時に発電できる
クレーンがブロックを降ろす時に発電できる / Credit:Energy Vault

この貯蔵装置の最大の特徴は、タワーを囲むように積まれた数々のブロックにあります。

それぞれのクレーンは余剰電力を利用して、タワーの周りに35トンのブロックを積み上げていきます。

そして電力が必要な時には、再度クレーンでブロックをつかみ下に降ろしていきます。重力によってエネルギーが生じるため、ブロックがある限り大量の電力を生み出し続けるのです。

ブロックが積まれていない状態のEnergy Vaultタワー
ブロックが積まれていない状態のEnergy Vaultタワー / Credit:Energy Vault

このタワーには多くのメリットがあります。環境に悪影響を与えず、どんな場所にも設置可能なのです。

さらに運用コストが非常に低く、同じ電力を貯蔵するためのバッテリー設備と比べると、コストは約半分とのこと。

 

未来の位置エネルギー貯蔵装置②Gravitricity

Gravitricity
Gravitricity / Credit:Gravitricity

もう1つのエネルギー貯蔵装置は、Gravitricity社が開発しているGravitricityです。

こちらは地中深くに掘られた穴に500~5000トンのおもりを落とすことでエネルギーを素早く放出するというもの。

このGravitricityには廃坑となった深さ1kmの坑道を利用します。

おもりは余剰電力を利用して上部へと持ち上げられ、位置エネルギーを保持。必要なときに落下させ電力が得られるという計画です。

地中深くにおもりを落下させて発電する
地中深くにおもりを落下させて発電する / Credit:Gravitricity

Gravitricityのメリットは、瞬時に莫大な電力が得られるという点にあります。

さらに25年間はパフォーマンスが低下することがないとのこと。一般的なバッテリーと比べてもはるかに長持ちだと言えます。

また新しくGravitricityを作るとしても、地球の中心に向けて1kmの穴を掘るだけなので、設置可能なポイントは数多くあるでしょう。

さて、ここまでで揚水発電に代わるエネルギー貯蔵装置を2つ紹介してきました。他にも同様の開発を続けている企業はあります。

現在どれも商用には至っていませんが、一部では既にテストが開始されているため、実用化は近いのかもしれません。

もちろん建設には費用がかかりますが、いざという時のために安定したエネルギー貯蔵設備は必要だと言えるでしょう。