アルテミス計画

アルテミス計画は、アメリカ合衆国政府が出資する有人宇宙飛行計画である。2024年までに「最初の女性を、次に男性を」月面に着陸させることを目標としている。計画名と計画の詳細は2019年5月に発表された。なお、アルテミスはギリシア神話に登場する月の女神で、アポロ計画の由来となった太陽神アポロンとは双子とされる。

アルテミス計画とは、2024年に有人月面着陸を目指し、2028年までに月面基地の建設を開始するというNASAのプロジェクトです。日本人初の月面着陸が実現されるのではないかと注目を集めています。壮大なアルテミス計画の全体像をつかむべく、関連するミッションの概要を解説します。

(1)アルテミス計画誕生の経緯と名前の由来

12人の宇宙飛行士たちが月に降り立ったアポロ計画は“自由の象徴”

「人間にとっては小さな一歩だが人類にとっては偉大な一歩だ」

この言葉とともにアポロ11号に搭乗したNASAのニール・アームストロング船長が人類初の月面着陸を達成したのは、1969年7月20日のことです。歴史的瞬間を一目見ようとテレビ中継を見ていたとされるのは、世界人口の5分の1にあたる6億人。

アポロ計画はその後4年の間、続くアポロ17号までに合計12名の宇宙飛行士を月面へと送り出し、米国が宇宙開発における確固たる地位を築く契機となりました。

そんなアポロ計画は当初、有人宇宙船を月軌道上に投入し周回する計画……つまり月面着陸は想定されていなかったと言われています。

冷戦のさなか1961年4月に旧ソ連は人類初の有人宇宙飛行を達成しました。機先を制された米国が踏みとどまるわけもなく、そのわずか一カ月後の5月25日にケネディ大統領は特別議会演説にて、1960年代が終わる前に宇宙飛行士を月面に送り彼らを地上に無事に帰還させるのだと宣言。

アポロ16号のミッションの様子Credit : NASA

自由という大義の下、旧ソ連に先駆けて月面着陸を成功させ、米国の国旗を立てることで、西陣営側の勝利を示すという考えがアポロ計画を大きく変えたのです。

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かつての偉業になぞらえながらも革新的なアルテミス計画

「我々は、宇宙旅行が大きな危険を伴うことを理解しこの冒険を始める」

コロンビア号の事故から1年後の2004年、当時のブッシュ大統領はスペースシャトルの退役とともに、早くて2015年、遅くとも2020年までに有人月面ミッション「コンステレーション計画(Constellation program)」を実施する方針を示しました。

ところが、2009年から2016年までのオバマ政権で、月面への取り組みは失速。その間に中国の宇宙開発は目まぐるしい発展を遂げました。

再び宇宙分野でのリーダーシップ取らなければならないと、2017年12月にトランプ大統領が宇宙政策指令第1号に署名し、有人月面探査と続く火星探査の実施が正式に決定し、のちに「アルテミス計画」と名付けられました。

その名前の由来となっているのは、ギリシャ神話に登場する月の女神で、アポロの双子とされています。かつての偉業になぞらえながらも、女性の活躍を彷彿させます。

アルテミス計画では、単一的な着陸ではなく、人類が月面に滞在するのに必要な環境やシステムを整えることで、持続的な探査と火星へのアクセスのハードルを下げることが期待されています。

(2)アルテミス計画の概要と参加国

アルテミス計画を構成する3つのミッション

壮大なアルテミス計画の工程は大きくは3つのミッションに分類されています。

まず「アルテミスⅠ」では、後述の大型ロケット「Space Launch System(以下、SLSロケット)」と「オリオン宇宙船」を地球から月まで往来させる無人飛行試験を実施します。ミッションは最大42日間の想定で、13のキューブサットを放出します。

Credit : NASA

続く「アルテミスⅡ」では、SLSロケットとオリオン宇宙船の有人飛行試験を実施します。打ち上げは2022年の予定で、ミッションは10日間の想定です。

Credit : NASA

そして「アルテミスⅢ」は、2024年を目標に進められている有人月面着陸です。月面着陸には、後述の月軌道ゲートウェイも活用されるようです。

NASA・アルテミス計画、有人月面着陸と基地建設の計画が明らかに【週刊宇宙ビジネスニュース 5/20~5/26】

日本・カナダ・ヨーロッパ、国際パートナーとの協力を推進

アポロ計画と異なる点として、国際パートナーとの協力を推進していることがあげられます。2019年2月にカナダ宇宙庁、10月にJAXA、11月にヨーロッパ宇宙機関(以下、ESA)がアルテミス計画への参画を決定しました。

らに日本においては、2020年7月に文部科学省の萩生田光一大臣とNASAのジム・ブライデンスタイン長官が「月探査協力に関する文部科学省と米航空宇宙局の共同宣言(Joint Exploration Declaration of Intent ,略称JEDI)」に署名しています。

Credit : Credit Department of State/Stephen Wheeler

月軌道プラットフォームゲートウェイの居住モジュールの建設や物資補給、月面のデータの共有、JAXAとトヨタ自動車が共同で月面探査用の与圧ローバーの研究開発を実施することなど、日本の協力内容が具体的に示されました。

さらにJEDIには、日本人宇宙飛行士の活躍の機会についても日米間で調整していく旨が合意されていて、日本人史上初の月面着陸が達成されるのではないかと期待されています。

(3)アルテミス計画における各ミッションやシステムの概要

オリオン宇宙船(Orion Spacecraft)

Credit : NASA

≪概要≫
宇宙飛行士たちと貨物を月軌道上またはゲートウェイまで送るのは、「オリオン宇宙船(Orion Spacecraft)」です。

地球低軌道上への輸送を想定して開発されたスペースシャトルの後継機として構想され、当初は有人宇宙輸送システム(Crew Exploration Vehicle, 略称CEV)と呼ばれていました。船内には乗員4名の搭乗が可能です。

≪開発担当企業と状況≫
オリオン宇宙船製造開発の主契約企業は、大手航空機・宇宙船メーカーのLockheed Martin(ロッキード・マーティン)です。

アルテミスⅠでは無人飛行試験が行われる予定ですが、2019年7月にはすでに緊急脱出システムの試験を完了させていて、2019年9月にはNASAはロッキード・マーティンと長期生産契約を交わしました。

NASA、オリオンの長期生産契約をロッキード・マーティンと締結【週刊宇宙ビジネスニュース 9/23〜9/29】

SLSロケット(Space Launch System)

Credit : NASA

≪概要≫
オリオン宇宙船を打ち上げるのは、火星有人探査を視野に開発が進められている「SLSロケット(Space Launch System,スペース・ローンチ・システム)」です。アポロ計画で活躍したSaturnⅤ(サターンⅤ)に次ぐ、世界最大級のロケットです。

≪開発担当企業と状況≫
SLSロケットのエンジンは、スペースシャトルと同じくAerojet Rocketdyne(エアロジェット・ロケットダイン)のRS-25エンジンが採用されています。

2020年5月にNASAは、Aerojet RocketdyneにRS-25エンジンを追加発注し、2029年9月までに24基のエンジンを開発する予定です。SLSロケットは4基のエンジンを搭載するため、6機分に相当します。

現在は、ロケットエンジン試験施設であるNASAのジョン・C・ステニス宇宙センターにて、本番と同じ状態でエンジンを燃焼させるGreen Run Testを実施しています。