英語の指導にビンゴゲームを使うことがあります。もともとは東京都の墨田区立両国中学校の長勝彦(おさ・かつひこ)教諭が授業で利用し、それが東京都、そして全国に広まったと言われています(ご本人や周りの方からお聞きしたものです)。単語の学習などに有効だとの印象を持っています(検証データなどがあれば知りたいです)。

ただ、このビンゴを「コミュニケーション活動」と結びつけることには疑問を感じています。

もう10年くらい前になると思いますが、中学校の教育実習生の授業でこんな場面を拝見しました。

ご本人の名誉のために先に申し上げますが、とても良い授業でした。力量もあり、今後が楽しみな実習生でした。ただ、一つだけ気になったのが、以下でご紹介するビンゴゲームによる「コミュニケーション活動」です。

その日は病気の名前がテーマでした。ビンゴシートが生徒に配られ、そこには、cold(風邪)やrunny nose(鼻水)などの病名が英語で書かれていました。

生徒はその中から一つを選び、自分がどの病気なのかを決めます。つまり、その教室の全員が「病気持ち」という状況です。あまり考えられない状況ですが、その点は置いておきましょう。

生徒たちは教室内を歩き回り、他の生徒と一対一でお互いの病名を尋ねます。相手の病名が書かれているマスにマルをつけたら、次の生徒に病名を聞きに行きます。こうして、縦、横、斜めのいずれか一列すべてにマルが付いたらビンゴが完成します。

つまり、こんな会話が想像できます。

A: Hello.  How are you? 
B: I have a cold.
A: Really? Take some medicine.
B: Thank you.
(続いて、BがAに質問する)

ここでAさんは以下のように cold にマルをつけることができます。


 

あとは、縦、横のいずれかに列ができることを目指します。

次にAさんはCさんと会話をします。以下の要の会話が進みます。

A: Hello.  How are you? 
C: I have a cold.
A: (小声で「え~!」と残念そうにしながら)Really? Take some medicine.
C: Thank you.

もうお分かりのように、CさんがBさんと同じ cold だったため、Aさんのビンゴは一つも進みませんでした。なので、Aさんは残念だという思いを口にしたのです。

こうなると、これはいったい何を目的とした活動なのか、と疑問を感じます。

おそらくこの活動の目的は「コミュニケーション」だったと思います。

しかし、もうしそうなら、相手が「風邪を引いた」といえば、「大丈夫?」「ゆっくり休みなよ」「実は僕も風邪をひいたんだ」などのやり取りが本当のコミュニケーションです。

でも、明らかに、Aさんにとって、この活動はビンゴというゲームに勝つことが目的になっていました。そのため、Cさんが cold と答えたときに、相手の体調よりもゲームの勝ち負けのことが気になってしまったのです。

もちろんこれはAさんが悪いというのではなく、コミュニケーション活動とビンゴを組み合わせた設定に問題があったと言えます。

繰り返しますが、決してビンゴが悪いということでもありません。前述の通り、単語のトレーニングなどには大変有効だと思っています。

ただ、「ビンゴ」と「コミュニケーション」が合わないのではないかと思います。

また、この実習生の授業は大変すばらしいものでした。ただ、一点のこの場面のみが気になりました。

そして、さらに言えば、こういう活動は、自分でもやっている可能性は十分にあるのではないかと思います。気をつけたいですね。