言語学者の黒田龍之助先生はご著書の『外国語をはじめる前に』(ちくまプリマ―新書)の中で大変興味深いことをおっしゃっています。

「外国語学習はダイエットに似ている気がする。とくに特に失敗に至るまでのパターンがそっくりだ」(9-10ページ)。

そして、「両方に共通する挫折までのプロセス」を挙げています。

①気軽に始める。
②手軽な方法に飛びつく。
③すぐに劇的な効果を期待する。
④目に見える変化がなかなか現れない。
⑤これまでのやり方がよくない気がする。
⑥新しい方法を探す。
⑦気に入った方法を見つけて再び飛びつく。
⑧それでもうまくいかない。
⑨すべてがイヤになり勉強を止める。
⑩しばらくするとまた気軽に再挑戦する。

私も含めて、耳が痛いという方も多いのではないでしょうか。

上の例は、外国語学習にしてもダイエットにしても、生死にかかわるほどの状況ではないですよね。外国語の場合、それを身に付けないと生きていけないという状況ではなく、何となく「できたらいいなあ」という軽い憧れ程度です。ダイエットも、心臓に大きな負担がかかるほど太っていて、痩せないと命にかかわる、という場合ではなく、「ちょっと体重が増えたから何とかしないと」という程度で、そう言いながら甘いお菓子を食べて「ダイエットは明日から」と言う例のパターンです。

このパターンは外国語学習やダイエットに限った話ではないと思いますが、この2つが代表的なのでしょうね。

これを読んだときに私は山田雄一郎先生の以下のことばを思い出しました。そして、日本の英語教育政策にも同じことが言えるのではないかと感じました。

山田雄一郎先生「なぜこんなにいろいろな教授法が出てきたかというと、私の理解ですけど、ことばの勉強には現実に何十年もかかるわけですから、どんなにすぐれた教授法であても、歳月の経過に堪えられないんですよ。何しろ学習者も教師もとりあえずの効果を期待しますからね。学校教育の数年間では、何をやっても効果が確認できないから「この方法では駄目だ」ということになる。(『「英語が使える日本人」は育つのか? 小学校英語から大学英語まで検証する』(山田雄一郎、大津由紀雄、斎藤兆史著、岩波ブックレート No.748、p.52、2009年))

この点を踏まえて先ほどの「プロセス」を改めて確認すると、思い当たる部分が結構ありますね。


①気軽に始める。
②手軽な方法に飛びつく。
③すぐに劇的な効果を期待する。
④目に見える変化がなかなか現れない。
⑤これまでのやり方がよくない気がする。
⑥新しい方法を探す。
⑦気に入った方法を見つけて再び飛びつく。
⑧それでもうまくいかない。
⑨すべてがイヤになり勉強を止める。
⑩しばらくするとまた気軽に再挑戦する。

「目に見える変化がなかなか現れない」「気に入った方法を見つけて再び飛びつく」などは、いまの実態を表している気がします。


ただ、唯一、外国語学習やダイエットと異なるのが、⑨でしょうか。例えば、政治家の提案である政策が始まり、うまくいかなかったとしても、なかなか止めないのが日本の政治・政策の特徴ではないでしょうか(日本だけじゃないかも)。うまくいかないならさっさと止めればいいのに、メンツがあるから、なかなか止めない。そして、現場が苦労する。何とかしてほしいですね。