小学校の英語の教科書には「道案内」がテーマとなっている単元があります。現在使用されている7社すべての教科書に道案内、あるいはそれに類する活動が載っています。

前回のエントリーでご紹介した愛媛での全英連の公開授業でも道案内がテーマとなっていました。

しかし、道案内にはいろいろと難しい面があります。

多くの先生がおっしゃるのが、現実性が乏しい(必然性がない)と言うことです。いまではGPS機能の付いたスマホがあるので、道を尋ねる機会はだいぶ減っているのではないでしょうか。私自身、ここ数年、道を聞いたことも聞かれたこともありません。ましてや、英語で道を聞かれたことはありません。

そうなると、日本の小学生が町で英語で道を聞かれる可能性はかなり低いと言えるでしょう。

まれに道を尋ねられたとしても、地図を見せて "Here" と言えば済みますし、時間があれば、"Follow me." でもいいので、ことばで説明する必要はさらになくなります。

さらに言えば、「防犯」「安全」教育の視点から言えば、知らない人から声を掛けられたら、近づかないほうがいいと指導することになるので、ある意味、道を聞かれたら教えるということは、それに矛盾した行為(笑)と言えるかもしれません!

これだけ問題がある道案内ですから、やる必要はないのに、と思いますが、しかし、一方で、多くの先生が、児童は道案内の活動が好きだとおっしゃっています。教科書から無くならないのはそれが大きな理由でしょう。確かに、動きがあり、ゲーム性があるので、楽しいのでしょう。必然性が低い活動かもしれませんが、子どもたちが楽しんで英語を使っているなら、それはそれでいいのかもしれませんね。

とはいえ、教室で行う道案内の活動をする場合に不自然さが残ります。地図で示された町の道が碁盤の目のようにきれいに整っていることが多いのですが、これが不自然な気がします。もっとも、本物の地図を使うと必要な表現が難しすぎて、活動にならないのかもしれません。

また、ペアで活動する場合、一人が指示を出してもう一人がそれに従って地図上を進むのですが、現実場面に置き換えると、いったいどんな場面なのだろうと考えてしまいます。一人が携帯電話などで指示を出しているのかもしれませんが、ゲームをしているみたいで、必然的な活動なのかと疑問に思ってしまいます。あるところでは、案内をする児童がもう一人の児童に付いていきながら英語で指示を出すという場面がありました。これこそ、Follow me.でいい場面ですね。

では、どうすればいいのでしょうか。

これが絶対、という解決方法はありませんが、いくつかヒントになる実践はあります。


私も過去に何度か小学校の英語の授業のお手伝いをしましたが、その中で、道案内の箇所がありました。やはり先生方は道案内の必然性が低い点に懸念を示しておられたので、街中での道案内という設定を止めて、学校案内にしました。学校公開などでお越しになったみなさんが行きたいところに英語で案内するという設定です。

これも、学校内には構内図があるからその場所を示せばいいのという考えもあるでしょうが、実際には、地図を見てすぐにその場所がわかるとは限りません。今いる場所を示して、地図を見ながら、ことばで説明するということはあり、不自然ではありません。先日の愛媛での全英連で私は広島の小学校の先生の隣りになったので、その先生にお聞きしたのですが、その先生の学校は学外からのお客様が多く、学内を案内することはあるので、不自然な状況ではないないとおっしゃっていました。そのため、その先生の学校でも、道案内の場面では学校内を案内するという活動にしているそうです。

また、新しいALTが来るので案内をしようという設定で、ストリートビューを使って、生徒の英語の指示通りに画面を動かして臨場感を持たせる工夫をしている中学校の先生もいらっしゃいました。生徒は食い入るように画面を見つめていました。

さらに、Go straight や Turn right. が言えればいいので、道案内ではなく、スイカ割りをした小学校の先生もいらっしゃいます(学校図書の Junior TOTAL English にも載っています)。

道案内の是非については、今後も議論が続くと思いますが、大切なことは、英語による道案内の construct(構成要素)は何なのか、言い換えれば、どんな力が付くことが期待されているのかを整理し、活動の目的を明確にすることでしょう。「英語で指示する力」「英語での指示を聞く力」「場所を表す表現を身に付ける」などいろいろありそうですが、まだまだありそうです。

これからも考えていきたいテーマです。

*最近、スーパーで「●●はどこにありますか?」と聞いたことはあるので、その設定も可能だと思ったのですが、お店の方にお聞きすると、ご親切にも、その場まで連れて行ってくれます。いまや、「〇〇にありますよ」だけでは、「不親切になってしまいますね」。残念。この設定は使えませんね。