導入文
雨の日の外出は、晴れている日と同じようにはいきません。
路面がぬれている。
雨音が周囲の音に重なる。
傘を使うことがある。
人の動き方も変わる。
足元や周囲の環境も、いつもとは少し違って感じられます。
私は生まれつき全盲なので、普段から音や足元の感覚、周囲の人の気配などを使いながら移動しています。
そこに雨が加わると、いつも使っている情報の受け取り方が変わることがあります。
そして、盲導犬と一緒だからといって、その変化がなくなるわけではありません。
雨の中でも私は周囲を考えます。
必要な方向を犬へ伝えます。
犬から伝わる動きを受け取ります。
分からない時には止まります。
必要なら人にも尋ねます。
そして、雨の日だからこそ、犬の状態や移動時間、休める場所についても、いつも以上に考えたいと思っています。
今回は、「雨の日は大変」という話だけではなく、天候が変わった時に、私と盲導犬の関係や役割分担がどう変わるのかを考えてみたいと思います。
1. 雨が降ると、同じ道でも同じ環境ではなくなる
普段歩いている道でも、雨が降れば環境は変わります。
道路を走る車の音が変わることがあります。
傘に当たる雨音が聞こえます。
水たまりを通る車の音が聞こえることもあります。
周囲の人も傘を差し、歩き方や流れが変わります。
いつもなら聞き取りやすい音が、雨音に重なって分かりにくくなることもあります。
だから私は、
「知っている道だから、雨の日も同じように歩ける」
とは考えないようにしています。
道そのものは同じでも、その日の環境は違います。
盲導犬と一緒に歩く時も、犬に任せてしまうのではなく、いつもと違う条件の中でどう歩くかを考える必要があります。
2. 雨音は、必要な音を分かりにくくすることがある
全盲の私にとって、音は周囲を知るための大切な情報です。
車の走行音。
人の足音。
店や建物から聞こえる音。
信号や案内に関する音声。
そうしたものを手がかりにすることがあります。
でも雨の日には、傘や地面、建物などに当たる雨音が加わります。
そのため、普段なら聞き取りやすい音が分かりにくくなることがあります。
ここで盲導犬がいるから、
「音を聞かなくても大丈夫」
になるわけではありません。
私は自分で周囲を考えます。
盲導犬から伝わる動きも受け取ります。
必要なら止まります。
そして、分からなければ人へ確認します。
第12回「盲導犬がいても不安な時」で書いたように、不安がある時に確認することは、盲導犬を信頼していないという意味ではありません。
雨の日ほど、分かったつもりで進まないことが大切だと思っています。
3. 傘を使うことで、普段とは違う動きになる
雨の日には、傘を使うことがあります。
傘を持つというだけでも、晴れた日とは身体の使い方が変わります。
手に持つものが増える。
周囲の人も傘を持っている。
狭い場所では、人との距離も気になります。
盲導犬と歩く時には、普段からハーネスを通して犬の動きを受け取っています。
その中で傘や荷物が加われば、自分が無理なく動けるかも考える必要があります。
私は、
「雨だから普段通りにできないのは困る」
と考えるより、
「今日は普段と条件が違う」
と考えるほうが自然だと思っています。
同じ歩き方を無理に再現しようとするのではなく、その日の条件に合わせる。
それも安全な外出の一部です。
4. 足元が変わると、歩く感覚も変わる
雨が降れば、路面がぬれます。
場所によっては滑りやすく感じることもあるでしょう。
水がたまっている場所もあります。
私は目で路面の状態を確認することができません。
だから、足元から受け取る感覚も大切です。
盲導犬は歩行を支えてくれます。
ただし、犬がいるから人間側が足元について何も考えなくていいわけではありません。
自分でも慎重に歩く。
犬の動きに注意する。
違和感があれば速度を落とす。
必要なら止まる。
雨の日は、
「早く雨を避けたい」
という気持ちが出やすいかもしれません。
でも、急ぐことで確認が雑になってしまえば、かえって安全から遠ざかります。
私は、雨の日ほど「急がない」という判断も大切だと思っています。
5. 盲導犬も雨の影響を受ける一頭の犬
雨の日の外出で考えたいのは、自分のことだけではありません。
一緒に歩く盲導犬も、生きている一頭の犬です。
第26回「盲導犬はロボットではありません」で書いたように、どんな環境でもまったく同じ状態で動く機械ではありません。
だから私は、
「盲導犬だから雨でもいつも通り働ける」
と決めつけないようにしたいと思っています。
雨の強さ。
気温。
移動時間。
外で過ごす時間。
その日の状況を考える。
犬の状態にも注意を向ける。
必要なら予定を変える。
盲導犬に歩行を支えてもらっているからこそ、ユーザー側には一緒に行動する犬のことを考える責任があります。
6. 雨の日は「行くかどうか」から考えることもある
外出の予定があると、
「雨でも行かなければ」
と思うことがあります。
もちろん、仕事や用事など、簡単には変更できない予定もあります。
一方で、必ずその日に行かなければならないとは限らない予定もあります。
私は、雨の日の外出を考える時、
「行けるか」
だけではなく、
「今日行く必要があるか」
も考えていいと思っています。
時間をずらす。
別の日にする。
移動方法を変える。
人の支援を使う。
そうした選択肢があります。
盲導犬と一緒だから、
「どんな天候でも一人で出かけなければ」
ということではありません。
行かないことを選べるのも、自分で生活を決めることの一部です。
7. 移動方法を変えることも、盲導犬との外出の一部
普段なら歩く距離でも、雨の日には別の交通手段を使うことがあります。
電車。
バス。
タクシー。
同行援護などの支援。
その時の状況によって、選択肢は変わります。
大切なのは、
「いつもこの方法だから」
と一つに固定しないことです。
第39回「盲導犬との遠出で気をつけること」でも書いたように、予定変更は失敗ではありません。
雨の日に移動方法を変えることも同じです。
盲導犬を利用しているから、できるだけ犬と歩かなければならないわけではありません。
犬と歩くことも一つの方法。
人に頼ることも一つの方法。
交通機関を使うことも一つの方法。
その日の環境に合わせて選ぶことが大切だと思っています。
8. 人に頼る場面が増えても、それは悪いことではない
雨の日は、普段より周囲の状況が分かりにくいことがあります。
そんな時には、人へ確認することがあります。
入口はどちらか。
今いる場所は合っているか。
屋根のある場所はどこか。
乗り場はどちらか。
必要な情報を言葉でもらえると助かります。
盲導犬がいるのに人に聞く。
これを不自然に思う人がいるかもしれません。
でも私はそう思いません。
犬には歩行を支えてもらう。
人からは言葉で情報をもらう。
自分でも判断する。
それぞれ役割が違います。
天候が悪い日ほど、使える方法を組み合わせることが安心につながります。
9. 周囲の人には、雨の日だからこそ一言をお願いしたい
雨の日は、傘を差している人が多くなります。
周囲も足早になりやすいかもしれません。
そんな中で、盲導犬ユーザーが立ち止まっていても、
「犬がいるから大丈夫だろう」
と考えず、
「何かお手伝いしましょうか」
と本人へ声をかけてもらえると助かることがあります。
難しいことをする必要はありません。
「入口は右側です」
「屋根のある場所はこちらです」
「この先は人が多いです」
など、必要な情報を具体的に伝えてもらえるだけでも助かります。
そして、雨の日でも仕事中の盲導犬へ直接声をかけたり、犬を引いたりする必要はありません。
犬ではなく、まず本人へ。
この基本は晴れの日も雨の日も変わりません。
10. 濡れた後のことまで含めて外出を考える
雨の日の外出は、外を歩いて終わりではありません。
目的地へ着いた後があります。
そして家へ帰った後もあります。
自分の服や持ち物がぬれていることがあります。
盲導犬も雨の中を一緒に歩いています。
だから、外出後のことも含めて考える必要があります。
私は、盲導犬との外出を、
「目的地まで連れていってもらうこと」
だけでは考えていません。
外へ出る。
一緒に移動する。
目的地で過ごす。
帰宅する。
その後も犬と一緒に生活する。
全部がつながっています。
雨の日は、この「帰った後」まで含めて、一日の負担を考えたいと思っています。
11. 雨の日だからこそ、犬とのコミュニケーションを丁寧にしたい
雨の日は、普段より情報が受け取りにくいことがあります。
だからこそ、盲導犬とのやり取りを雑にしないことが大切だと思っています。
第28回「盲導犬とのコミュニケーション」で書いたように、
私から伝える。
犬から動きを受け取る。
必要なら確認する。
また伝える。
この繰り返しがあります。
雨が強い。
周囲が騒がしい。
自分が傘や荷物で動きにくい。
そんな状況では、普段以上に焦りやすくなるかもしれません。
でも、焦って一方的に進もうとするのではなく、犬の動きを受け取る余裕を持つ。
分からなければ立ち止まる。
私は、それが雨の日の安全につながると思っています。
12. 雨の日の不安を「弱さ」と考えない
雨の日に外へ出るのが不安。
普段より慎重になる。
人に頼る回数が増える。
予定を変えたくなる。
そういうことがあってもいいと思っています。
天候によって環境が変わっているのですから、自分の判断が変わるのは自然です。
第40回「忘れられない外出の思い出」でも書いたように、外出の価値は「どれだけ一人でできたか」だけでは決まりません。
安全に行動するために、
今日は人に頼る。
今日はタクシーを使う。
今日は出かけない。
そう判断することもできます。
私は、無理をすることを自立とは考えていません。
その日の状況に合わせて方法を選ぶ。
それが、自分の生活を自分で決めることにつながると思っています。
13. 晴れの日と同じようにできないことを責めない
雨の日は、晴れている日と同じペースで動けないことがあります。
それを、
「いつもできているのに」
と考えてしまうと、焦りにつながります。
でも、条件が違えば、必要な時間や方法が変わるのは当然です。
これは盲導犬についても同じだと思います。
いつもと違う環境で、まったく同じ動きを求めるのではなく、その日の状況を考える。
人間も犬も、生きています。
いつでも同じ条件で動く機械ではありません。
私は、
「普段通りにできること」
より、
「今日はどうすれば安全に動けるか」
を大切にしたいと思っています。
その考え方が、盲導犬と長く暮らしていくうえでも必要なのではないかと思います。
14. 雨の日の外出から見えてくるのは「柔軟に選ぶ力」
雨の日は、晴れの日には意識しない選択が増えます。
傘を使うか。
歩く距離を減らすか。
交通手段を変えるか。
人に頼るか。
時間をずらすか。
予定そのものを変更するか。
その一つひとつに、正解が一つだけあるわけではありません。
ユーザーによって違います。
盲導犬によっても違います。
行き先や雨の強さによっても変わります。
だからこそ、
「盲導犬ユーザーなら雨の日はこうする」
という一つの型で考えないことが大切です。
自分と犬、その日の環境に合った方法を選ぶ。
私は、その柔軟さも盲導犬との暮らしの一部だと思っています。
15. まとめ
雨の日の盲導犬との外出。
それは、晴れの日とまったく同じ外出ではありません。
雨音が加わる。
足元の状態が変わる。
傘や荷物で身体の使い方が変わる。
周囲の人の動きも変わる。
そして、一緒に歩く盲導犬も雨の中にいます。
だから私は、
「盲導犬がいるから雨でも問題ない」
とは考えません。
自分で周囲を考える。
犬へ必要な指示を伝える。
犬からの動きを受け取る。
分からなければ止まる。
必要なら人に尋ねる。
移動方法を変える。
場合によっては、外出そのものを変更する。
そうした選択肢を持っておくことが大切だと思っています。
第2シリーズ「雨の日の外出が大変な理由」では、全盲の私にとって雨の日の移動がなぜ難しくなるのかを中心に書きました。
今回、第3シリーズで伝えたかったのは、
「そこに盲導犬が加わっても、雨の日の難しさが消えるわけではない」
ということ。
そして同時に、
「盲導犬と一緒だからこそ、自分だけではなく犬のことも含めて判断する」
ということです。
盲導犬との暮らしには、自由があります。
一緒に歩ける安心があります。
外出の選択肢が広がることがあります。
でも、その自由には責任もあります。
犬の状態を考える。
無理をさせない。
自分自身も無理をしない。
必要なら人へ頼る。
状況によって方法を変える。
私は、こうした判断まで含めて「盲導犬と一緒に歩くこと」だと思っています。
雨の日に出かけられたから成功。
出かけなかったから失敗。
そんな単純なものではありません。
今日はどうするのがいいか。
自分と犬の両方を考えながら選ぶ。
その選択そのものが、盲導犬ユーザーとして生活することの一部です。
そして、天候による負担は雨だけではありません。
夏には暑さがあります。
気温が高い日には、人間だけでなく、一緒に歩く犬への配慮もさらに重要になります。
移動する時間。
外で過ごす長さ。
休むこと。
予定を変えること。
雨の日とはまた違う判断が必要になります。
次回は「夏の外出で気をつけること」について書きます。