こんなかっこでも絵になっちゃうトミー北沢おそるべし。

<るいはクリーニング店に戻るが、からのままの鍋(豆腐を買わなかった)をそこにおいたまま、何も言わず自室に上がってしまう。驚く竹村夫妻。
二階でへたへたと座ってしまうるい。

「ジョー、諦めるな。そないな病気があんのかどうか、バンドの連中にも聞いてみる」
話を聞いた小暮が言う。だがジョーは
「ありがとうございます。でも…このことは誰にも知られたくないんです」
「サッチモちゃんは?結婚するんやろ」
「………。るいには自分で話します」
「そっか」
ここにいたらみんなに会ってしまうからしばらく宿にでも泊まってこれからどうするか考える、とジョー。そしてトランペットを小暮に預ける。
「ジョー。大丈夫や。慣れ親しんだ大阪へ帰ってきたんや。きっと治る」
と小暮。

トミーがNight & Dayにやってこようとしたとき、ちょうど店を出て去っていくジョーの姿に気づく。
「ジョ……」
声をかけようとして、奈々が一緒であることに気づいてはっとして固まり、驚いた顔でジョーの去った方向を見ている。

月浜という旅館。奈々が座ってお茶を飲んでいて、ジョーは窓辺にいる。

「奈々さん。もう僕のことはいいから、東京に帰ってください。今頃、僕の開けた穴を埋めるために社長が奔走してはると思います。そやから…」
奈々はふっと笑って
「その穴を埋める人材を探すために大阪に来たのよ。それが私の仕事なの。私は近くのホテルに泊まってるから、なにかあれば連絡して頂戴」
そう言って奈々は去る。そこへ入れ替わるように、トミーがやってきた。
「トミー?」
「なにしてんねん…」
震えを帯びた声でそう言うと、トミーは飛びかかるようにジョーに近づいて胸ぐらをつかみ
「ええ? なにしてんねん! なあ!何してんねん、お前は!」
と怒鳴る。
「女にうつつ抜かして、なにもかも台無しにしたってか?!」
「トミー…」
「トランペットどこや。どこに置いてきたんや。トランペットも、トランペッター大月錠一郎も!!」
唇を震わせ、トミーの肩を掴み返すジョー。
「トミー…!」

竹村クリーニング店。
るいの様子を気遣う和子。そして平助が、Night & Dayの配達分が仕上がった、あとで配達してくれ、というと素直に「はい」とるい。
だが和子は
「行かんでええ」
そして平助に、
「あんた、あとで持っていき」
「うん」
平助も意外そうな顔はまるでしない。

「あの…」
「大月くんと、なんかあったんか?」
「………」
「それぐらい分かるわ。…言いとうなかったらええ。せやけど、心配なんや。おっちゃんも、おばちゃんも」
すすり泣き始めるるい。何も言わずその肩を抱く和子。

Night & Day。
ステージの真ん中で、椅子にだらしなく腰掛けた状態で、しかも片手に酒の瓶を持ったままでスローなバラードを吹いているトミー。
なにあれ、といぶかしむベリー。

客席に奈々がやってきて、トミーのそんな様子を見てにっこりとしている。
奈々に気づいたベリーは
「なんであいつが?」


演奏を終えてよろけながら戻ってくるトミー。
「トミー。なんかあったん。なあ、トミー?」
「うるさい。お前はさっさと帰って卒論書け」
「もうとっくに書いたわ」
そこへ奈々がやってきた。
「こんばんわ。笹プロの笹川奈々と申します」
「知ってる」
「光栄です。トミー北沢さん。コンテストでは準優勝でしたね」
「それが?」
「ふふ、どうかしら、一度東京で、ステージに立ってみません? 父がまた、新人を発掘したいて言ってるんです」
険しい顔で奈々を見やるトミー。ベリーも
「あんた何言うてんの? 東京でデビューすんのはジョーやろ。ジョーの話はどないなったん?!」
「失礼。一度ゆっくりお話させていただけます?」
ちょうどそのとき平助が配達にやってきた。

「ふざけんなよ」
とトミー。
「お前の親父がジョーを預かったんやろ。最後まで責任取れや!!何やねん!!」
突如立ち上がるトミー。よろけながら
「わけのわからん病気になったからいうて、ゴミみたいに捨てやがって!」
大声で怒鳴る。
「病気?」
驚くベリー。小暮がトミーを止めようとしているが聞かず
「ジョーは治る!絶対治る!せやから空けとけ!録音スタジオも、クラブのスケジュールも、ジョーが帰ってくるまで!」

それをそばで聞いていた平助の驚いた顔。

平助は帰ってからそのことをるいと和子に話した。おそらくトミー(と奈々)からちゃんと聞いたのだろう。トランペットを吹く身振りをしながら説明しているらしい平助の姿(ただしこの場面は音声なし)。
突然飛び出していくるい。

るいはジョーの泊まっている旅館まで行って
「なんでホンマのこと、言うてくれへんかったんですか?言うてほしかった。一緒に、泣きたかった…。一緒に苦しみたかった。私にできること、何でもしたかった」
「……分かってたから…。そう言う、って分かってたから、言われへんかった。……るい。僕とおったらあかん。不幸にしたくない」
「勝手に決めんといて。何が私の幸せか、勝手に決めんといて!」
だがジョーは無理やりるいを押し出してしまう。
外に立ち尽くするい。だがその顔にはなにか決意のようなものが読み取れる。

竹村家。るいはほほえみさえ浮かべて、なにやらおにぎりのようなものを作っている。だれかが店に訪ねてきた。あいさつしかかって、あっと小さく声を上げる平助、るいに出るように言う和子。

訪ねてきたのはベリーだった。卒業式に着るスーツの洗濯を頼みに来た体。
卒業おめでとうございます、とるい。
「何がめでたいの。もう私の青春は終わりや。……サッチモ、元気なん?」
「え?」
「もう…気になって卒業どころやあらへん」
「私は…大丈夫です。諦めへん、て決めたから。ジョーさんのこと。ジョーさんと幸せになること」>

朝イチの華丸さんは、あれはいただけない、あれはプロ失格、って言っててそのとおりなんだけど、ジャズマンとしては「伝説」になりうるね。まあそれ自体ろくなことじゃないんだけど。古今東西、ミュージシャンとか俳優とかパフォーマーには酒や薬に溺れるというイメージがあるが、たしかに優れた芸術的パフォーマンスをするということはそれだけ感性が鋭敏で、普通にやりすごせないことも多いのだろうし、有名になればそれだけストレスも多大だろうし。でも「ミュージシャンだから許される」と勘違いしてる似非なやつもまた多いんだろうな、その線引きは難しい…というか線なんか引けず、ただ結果論しかないんだろうな、天才の苦悩の伝説となるか凡人の甘えの退廃となるかは。

飲んだくれていようがトミー(&ベリー)はまたしてもグッジョブだし、竹村夫妻の阿吽の優しさには心掴まれる。

平助さんがNight & Dayに配達を、と言ったのも無神経ではなく、もしかしたら様子を見るためにわざと言ったことで、和子さんもあらかじめ分かっていた、もしくは少なくともその瞬間に平助さんの意図を理解した、ってことなんじゃないかな。ああ、今から竹村夫妻ロスを心配してしまうわ私。るい編が終わって(あるいはるいたちが東京に移り住んで)彼らが出てこなくなったらやだなあ。


ジョーの「病気」は当然精神的なものだろうし、現代であればカウンセリング対象だよね。当時はそういう概念はあまりなかったんだろうか。大阪ではジョーには小暮さんがいて、トミーという盟友もいて(ライバルだけどトミーのジョーを大切に思う気持ちはジョーにも知らず識らず伝わっているだろうし)、ベリーもただ迷惑な追っかけではないことは分かっているだろうし、そしてるいがいた。でも東京で、調子のいいときにはちやほやしてくれる笹川も他のバンドマンたちも、「気心の知れた」「ジョーを心から大切に思う」人たちではない。そういうアウェーな状態ではちょっとしたストレスも解消されずに溜まっていくだろう。

とはいえ、笹川社長が悪者かと言うとそうはいえない。そもそもそんなことでつぶれるようではやっていかれない。ジョーは初めはコンテストには出たくないと言うほど、もともと自覚的に繊細だったのだ。あの浮浪児の少年はもっとたくましく思えたものだけど、一度すべてを失った恐怖がしみついているのかもしれない。そしてその後に得たものをまた失いたくない、と繊細になってしまうのは解せないことではないな。

そしてるい。
るいも安子に「捨てられた」と思っていた。だがその後、そのことを自分の中で再吟味し始めたかもしれない。自分が安子を拒絶した、ということを思い出してそれがむしろ負い目となっているかもしれない。
るいがここでジョーを諦めてしまったら、るいは再び「捨てられた」ことにもなり、かつ、そこで食い下がらずに自らを閉じた、ということにもなる。
ここでしっかり諦めずにコミュニケーションをとり(少なくとも「誤解」は解けているのが大きな違いだ)ジョーと再びうまくいくことができれば、安子との関係にも新しい側面が生まれてくるだろう。

なにが不幸かなんて勝手に決めんといて!

ほんとうに、相手のためを思って、のつもりでろくに話し合うこともなく勝手に相手の気持を「忖度」してしまうことに、多くの「不幸」の芽がある。傷つけないようにと思ったことが実は更に大きな傷を負わせてしまうことがある。「身を引く」ことが相手にさらなる迷惑を生じさせてしまうこともままある。もちろんとことん話し合ったからと言って魔法のような解決が訪れるわけではないだろうが、少なくとも物事がクリアになり、ある程度でも納得ができれば先に進めるというものだ。不条理な、理不尽な状態のままにおかれるほど厄介なことはない。

だから遠慮しすぎる人間は困ったものなのだ。
そういう遠慮しすぎる人間だったるいが、少なくともこの件についてはそうでなくなったことはなにげに大きな変化だと思うし、このドラマの根幹に関わってくることかもしれない。

言いたいことは言う、トミーやベリーや竹村夫妻の高貴さを見給え!と言いたい気持ちだ。



私のその他のサイトにもご訪問ください。

英語のヒミツ(英会話学習支援サイト)

コロナにかかってしまいました(闘病?記録)

 

キラカラ―(手作りアクセサリー 販売も)

アマテラスのビンボー旅日記

FaceBookはこちら

Twitterはこちら