姉弟8 葛城ミサトとその元カレ(EVA小説) | 卵とじのエヴァンゲリオンの小説など

姉弟8 葛城ミサトとその元カレ(EVA小説)

「ねえ、リツコどうしたら良いの?ねえリツコ!?」
シンジ君の記憶が戻りかけている。頼れるのは、リツコしかいなかった。シンジ君の記憶を書き替えた手術をしたのがリツコなら、その手術が出来るのもリツコしかいないのだから。
「ねえ、リツコどうしたら良いのよ。シンジ君がシンジ君の記憶が戻っちゃう。」
リツコに対する想いなんて今は関係無かった。リツコにしても、それは同じだろう。仮にも義理の息子であるシンジ君を大切に思っているのは同じなのだから。
それなのに………
「……どうしようもないわね。」
そんな事を言われるとは思わなかった。
「リツコ?アンタ何言ってんの?どうしようもない?なんでよ?アンタ何とかしなさいよ。じゃないと、じゃないと………。」
シンジ君の記憶が戻ったら自殺しちゃう。あの時の様に………
「……………。」
それなのに、リツコはうつ向いたままで答えない。
「リツコ!!アンタ何とかしなさいよ!!シンジ君を助けてよ!!リツコ!!リツコ!!何とか言いなさいよ!!」
「おい……葛城。」
リツコの肩を掴んで揺さぶっていたら、急に後ろから声がかかった。
「加持君?」
リツコを責めていて、加持君が職員室に入ってきた事に気付かなかったようだ。
「落ち着け。リッちゃんを責めても仕方無いだろう。それに、リッちゃんは身重なんだぞ。」
加持君がリツコの肩を掴んでいた手を取る。
「落ち着けって………。」
そんなの出来る訳無いじゃない。あんなのはもう二度と見たく無い。シンジ君が首を吊ってるのなんて………
「リッちゃん、シンジ君の事、どうしようも無いのか?」
加持君は私の前に立ちリツコに聞く。
「ええ。」
「記憶をまた、書き替える事は?」
私も、それを思った。
非道い事だとしても。
最低な行為だとしても。
生きてるのがシンジ君では無く、シンジ君の姿形をした別の人間なのかもしれないとしても。
死んで良いわけ無いじゃない。生きてる方が良いに決まってるじゃない。
シンジ君にとっても、私にとっても。
きっと、きっと、きっと………。
それなのに……
「………無理よ。」
それも無理って………。
生きていてもらうのも無理で、生かすのも無理なんて、あんまりじゃない。
「どうしてよ、どうしてよ、どうして…………。」
視界が滲む。
頬に伝う涙が気持ち悪い。
シンジ君の未来が閉ざされた気がした。それと同時に私も。
「シンジ君の脳に手を加えるなんて、二度も出来ないのよ。シンジ君の身体が耐えれないから。」
リツコが言うのなら確かなのだろう。私は言葉を発する事が出来なくなった。
「シンジ君の記憶が戻るのも、時間の問題だと思うわ。」
いつもなら淡々と、そんな事を言うリツコを責めたかもしれない。けど、リツコが涙を流していたから、
「……そう。」
一言だけ返すのがやっとだった。
「ミサト。」
少しの間、沈黙が続いた所でふいにリツコから声がかかる。
「何?」
リツコの顔を見ずに答える。また、自分を抑えれそうにないから。
「シンジ君の記憶が戻ったらどうするの?」
違うでしょリツコ?シンジ君の記憶が戻って、また自殺しようとしたらでしょ?心の中でそう呟いて、答えを返す。
「もちろん一緒に死ぬわよ。」
「な、なに馬鹿な事言ってんのよ!!」
馬鹿な事?
「私やリツコが今まで子供たちにした事よりはマシよ。」
それに、もうシンジ君を独りになんてしたくない。
シンジ君の居ない世界なんて意味が無い。
「けど、それは……。」
「人類の未来の為に仕方無かったって?」
リツコもとことん丸くなったなって思う。前までは、そんな事言う人間では無かった。これも、母親になろうとしてるからだろうか?けどさ、アンタがそんな事言っちゃダメなのよ。
「人類の為?リツコ、あんたさ、お腹の中の子供がシンジ君と同じ目にあってもそんな事言えるの?」
「葛城!!」
加持君ごめんね、あなたの親友でもあるリツコに非道い事言って。私もこんな事言うつもりは無かった。それが、リツコを酷く傷付ける言葉だと分かってたから。
けどさ、だってさ、違うでしょ?人類の為なんかじゃ無かったでしょ?私やリツコは。
「父親の復讐の為に道具にされて。」
これは私。
「妻に会う為の道具にされて。」
これは、アンタの殺されても許せる程愛しい夫。
「好きな人の為だけに、道具されて。」
これは、あんた。
「あんたの子供がそんな目に会っても、人類の為にって許せる?」
「葛城、いいかげんにしろ!!」
加持君が私の手を取り、職員室から出ようと引っ張っていく。
「あんたの旦那様に、『もし私がエヴァに取り込まれても子供を犠牲にしないで。』ってお願いしとくのね。」
「うぅぅぅぅ……。」
リツコが崩れ落ちる様に泣いている。本当に弱くなったと思う。
けどさ……
「あんたが泣いちゃ駄目よ。その事で泣いて良いのはシンジ君だけなんだから。」
私はリツコに忠告して、職員室を出た。

「最低でしょ、私って?」
私はシンジ君がいる、保健室に向かいながら加持君に聞いてみた。
「ん?まあ、あんなお前は見てられないな。」
まあ、そうだなって思う。自分でも、仮にも親友のリツコにあんな事を言えるとは思わなかった。
「あ、そういえば、今日ありがとうね。シンジ君の事。」
リツコもだけど、私も弱くなった。シンジ君に何かあっただけで、スグに取り乱してしまう。
加持君がシンジ君を保健室まで運んでくれなければ、もっと大変な事になっていたかもしれない。
「ん?ああ、どうって事無い。気にするな。もっと、頼ってくれても良いんだぞ。」
これは、もしかしなくても口説いてるんだろうな。
「アンタには、頼ら無いわよ。沢山の女性に頼られて大変だろうし。」
「ハハッ…。まいったな。」
否定しない所を見ると、やはり加持君はモテてるようだ。大学生の頃なんかは、その事でよく嫉妬した。そんな事を何とも無く思えるようになった私にとって、加持君はやはり昔の男になったようだ。
「けど、俺はまだ葛城の事諦めて無いんだな。」
加持君は違ったようだけど。これは、はっきり言った方が良いわね。
「加持君、ごめんね。私、好きな人が出来たんだ。」
まさかシンジ君だろうとは夢にも思わないだろうけど。
「シンジ君かい?」
思ってたようだ。
「な、何でよ!?私の半分の年の子を好きになるわけ無いでしょ!!」
自分でも怪しい程に強い口調になってるのがわかる。加持君は鋭いから、絶対にバレただろうな。
「ハハッ、シンジ君なんだな。」
まあ、加持君で無くてもバレるわね。
「秘密よ。特に、レイやアスカにはね。」
私は潔く白状した。
「けど、なんでシンジ君なんだ?ショタじゃあるまいし。」
「う~ん」
それは自分でも良くわからない。
シンジ君と会った時、少なくとも好意は持った。一緒に暮らす様になって、ソレが段々と膨らんでいくのを感じた。
けど、それは加持君への想いで隠れていて気付かなかったんだと思う。
そして、加持君が死んだ時、その寂しさをシンジ君にすがって消そうとした。その時、無意識の内に好きな男に助けてもらおうとしたんだろう。じゃないと、14歳の少年を襲うなんてしない。
私は、とことん女だから、弱ってる時は好きな男にすがってしまう。ということは、気付かなかっただけで以外と早い段階でシンジ君を好きだった?
なんて難しく考えたけど、シンジ君は優しいし、美男子の部類にじゅうぶん入るし、家事は出来るし、
「世界を救ってくれた英雄を好きにならない女なんて居ないわよ。」
今更ながら、私がシンジ君を好きな理由なんて、揃っている事に気付いた。
「ハハッ、手強い相手だな。」
「そうよ、だから私の事はもう忘れなさい。」
「そういう訳にもいかないんだ。」
私は加持君に腕を引かれ、向かい合う形になる。
「シンジ君とキスしたのか?」
「なっ!!」
なんで、加持君が知ってんのよ。見られてたはずは無いし。
「加持君!!なんでっ「こんなキスか?」んっ!?……。」
なんで知ってるのか聞こうとしたけど、出来なかった。口が加持君の唇で塞がっていたから。
「…ひょっ、やめて…………。」
壁際まで追いやられて抜け出せそうに無い。まあ、キスなんかで喚き散らす様な歳では無いから、後で二度と私とキスしたいなんて思わ無いように、ボコボコにしてしまえば問題無いだろう。
「姉さん……大変です。」
シンジ君に見られなければだけど………。