企業数の減少が続くなか、事業承継を円滑に推進することで廃業を食い止めることが重要になっています。しかしながら、地方の小規模事業者が単独で様々な課題を解決することは容易ではありません。『中小企業白書2014年版』によると、「(後継者が)決まっていないが候補者はいる」及び「候補者もいない」と回答した者のうち、「社外の第三者への事業承継を検討している」と回答した者が小規模事業者において約5割おり、社外にまで後継者を求めようとしていることが見て取れます。これを受け中小企業庁では、後継者のいない中小企業・小規模事業者が安心してM&A等による事業引継ぎを行うことができるよう、2015年4月に「事業引継ぎガイドライン」を策定しています。

 こうした中、地域の情報ネットワークの要であり、人材やノウハウを有する地域金融機関が、資金供給者としての役割にとどまらず、地域の中小企業等に対する経営支援や地域経済の活性化に積極的に貢献していくことが強く期待されています。

 金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」によると、地域密着型金融の推進に関する基本的な考え方として、顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮が示されています。その中で、事業承継が必要な顧客企業に対して、「後継者の有無や事業継続に関する経営者の意向等を踏まえつつ、M&Aのマッチング支援、相続対策支援等を実施」することが例示されています。

 このように、中小企業の事業承継支援への積極的な対応が、地域金融機関の重要な役割として求められているのです。

では、地域金融機関による中小企業の事業承継支援においては具体的にどのような取組みが行われているのでしょうか。

 島根県に本店を置く地方銀行である山陰合同銀行の事業承継支援は、本店地域振興部の事業支援グループが行っています。その業務内容は、M&Aアドバイザリー業務などの企業戦略支援、ビジネスマッチングなどの事業展開支援、事業承継相談業務などのコンサルティング業務に大別されます。M&Aやビジネスマッチングは業務の一環として行われており、顧客企業から手数料を徴収しています。

 同行は他の地域金融機関と比較して中小企業のM&Aによる事業承継支援を先行的に行ってきました。銀行内部の人材・ネットワークでM&A業務を遂行できるノウハウを有しており、年間数件のM&Aまたは資本提携の実績があります。具体的なプロセスとしては、売り手のニーズを起点に同行のデータベースや他の連携機関のネットワークから買い手側とのマッチングを図っていきます。小規模企業の場合は手数料負担が重い場合もあるため、事業引継ぎ支援センター・事業引継ぎ相談窓口などの公的相談窓口との連携を強化しています。

 また、中小企業の後継者育成に関しては、「八岐大蛇(やまたのおろち)塾」という後継者育成塾を2015年に立ち上げ、リーダーシップスキル、事業承継などといった計8回の講座を開きました。このように、地域金融機関は、M&Aによる事業承継支援や後継経営者の育成などにおいて積極的な役割を果たしているのです。