「源氏物語の世界」②筝曲…邦楽アンサンブルいとたけ

邦楽アンサンブルいとたけの皆さんが、源氏物語から「夕顔」と「花散里」を唄と箏曲で発表しました。
夕顔

いとたけ1 いとたけ2

三絃 菊岡検校作曲

琴手付 八重崎検校

  【歌 詞】

     住むや誰 訪いてや見んと 黄昏に 寄する車の訪れも

     絶えて ゆかしき中垣の 隙間求めて垣間見や

     かざす扇に薫きしめし 空薫きもののほのぼのと 主は白露光を添えて

     いとど映えある夕顔の

     花に結びし仮寝の夢の 覚めて身に沈む夜半の風
【現代語訳】
住んでいるのは誰でしょう、訪ねてみましょうか、と光源氏は思い、黄昏時にその家の近くに牛車で立ち寄った時のことです。それは、以前に見舞った乳母の家と夕顔の家とが垣根で隔たれていて、かえって様子が知りたくなり、垣根の隙間を探して垣間見をしようと思うほどでした。
光源氏は、家の者から夕顔の花を載せてもらった扇をかざすと、そこには、お目当ての夕顔がたきしめた空薫(そらだ)きものの香がほんのりと漂っていました。また、扇には、夕顔によって「白露の光添へたる夕顔の花」と趣深く書いてありました。
そんな趣のある夕顔の花が縁となって関係を結んだ二人でしたが、「何某の院」で光源氏が夢から覚めると、夕顔はすでに息絶えていました。死別の悲しさで、夜更けの風が身に沁みました。

花散里

いとたけ3 いとたけ4

昭和51年 熊沢辰巳作曲

  【歌 詞】

  橘も 恋のうれひも 散りかへば

  香をなつかしみ ほととぎす鳴く    (與謝野晶子)

                 

  橘の 香をなつかしみ ほととぎす

  花散里を 訪ねてぞとふ(紫式部「源氏物語」花散里の巻)

                   

【解 説】

 この曲は、源氏物語「花散里」の巻よりとられ、その中の一首が主題となっています。現在の空虚さをふまえての過去への追慕と悔恨とでも言えましょうか……。花も花の香も、もう今は無い。にもかかわらず過去への追慕に心を占められている。

 昔のことを思い出させる橘の香りが懐かしいので、ホトトギス(私)は、橘の花の散るこのお宅を探してここにやってまいりました。