からくり人形の制作工程(頭編)

 大野谷文化圏活性化推進委員会では、木偶師・萬屋仁兵衛氏に常滑市大野町・十王町「梅榮車」に伝わる、常滑市有形民俗文化財のからくり人形2体(麾振唐子と陵王面をつけて舞う唐子は、経年劣化で傷んいる。)の復元修理を請け負っていただきました。
 この事業の中には、作業工程などを多くの人に公開することも含まれています。そこで、萬屋仁兵衛氏の承諾を得て「木偶師二代目萬屋仁兵衛」を参考にして、からくり人形の制作工程を紹介することとしました。

 
 からくり人形は、多くの工程を経て制作される。その一つ一つの作業において、木偶師の心と技が込められ、人形が生み出されていく。頭の制作工程を紹介します。

頭01   頭02
(①左写真・材料の選定)木の乾燥具合、脂(やに)の出方を十分に考慮し、木を選択する。(檜材は日に当たると固くなる性質を持っているため室内に保管されている。木は生き物であるため、若い木は動きが激しく間違った使い方をすると割れやヒビが起きやすい。数年木を寝かせることにより木が安定する。)
(②写真左・木取り)木の性質を考え、細く変形しないように、木裏を正面の中央に来るように木取りを行う。


頭03   頭04
(③写真左・荒彫り)人形頭の大まかな輪郭を彫り進める。
(④写真右・小造り1)荒彫りでおおまかな輪郭を取った後、細かな彫りを進めていく。


頭05   頭06
(⑤写真左・小造り2)さらに目・鼻・口などの部分を削りだしていく。
(⑥写真右・断割)七~八割り頭が彫り上がったら、頭の内部を刳り抜くため、頭部を断割する。



頭07   頭08
(⑦写真左・刳り抜き)重量を軽くするため、丸鑿(まるのみ)、すくい鑿、などの道具を使用し内部を削り取る。
(⑧写真右・接着)断割した頭を接着し、2~7日間タコ糸で縛り乾燥させる。



頭09   頭10
(⑨写真左・共木埋め)断割の時に当てた鉈(なた)の隙間を共木で埋める。
(⑩写真右・磨き)紙やすりで記事の表面が滑らかになるように磨く。



頭11   頭12
(⑪写真左・和紙貼り)接着面の強度を高め檜の脂止めのため、大福帳などの古い和紙を貼る。裁断面は接着力を強めるように鋸の刃を使い、毛羽立つように切る。
(⑫写真右・地塗り胡粉塗り)地塗り胡粉を腰の強い馬毛で塗り、紙やすりで磨いた後、胡粉で埋まった目、鼻、口をノミなどの刃物で切り出す。


頭13   頭14
(⑬写真左・湯拭き)小さな気泡もしっかり取り去るように、湯で浸した晒し木綿で拭く。この工程により、仕上がりの状態が変わるため、丁寧に拭き、磨く。
(⑭写真右・中塗り胡粉塗り)胡粉塗りは、地塗り、中粉塗り、上塗りと工程は分かれる。胡粉や膠(にかわ)の濃度が違う。



頭15   頭16
(⑮写真左・乾燥)季節、気温、湿度の状態により濃度調整を行い塗った胡粉を乾燥さる。
(⑯写真右・上塗り胡粉塗り)中塗りに使用した胡粉を湯で薄め、埃が入らないよう細心の注意を払いながら重ねて塗り上げる。


頭17   頭18
(⑰写真左・面相、彩色)重要な顔の表情となる目、眉、唇に色を施し、髪の生え際などを書き入れる。顔を書き終えたら、息を吹きかけ自然な艶が出るように磨く。
(⑱写真右・髪の植え付け)人形に合わせた髪質を選び、生え際に糊をつけ押し込んでいく(絹糸の使用の時はみじんこ糊を、人毛では膠を使用する)。みの毛(毛の上部が編み込まれバラバラにならない毛束)では真鍮の釘を使用し、最後に髪を整え完成となる。



胡粉塗りの工程
胡粉塗り
1 膠の調整
  胡粉を作るために、三千本膠と板膠を調合する。濃度は季節によって変える。
2 地塗り胡粉
  下地に塗る胡粉は粒子の荒い胡粉を使用し、混ぜる膠の濃度も濃いものを使い、刷毛は腰の強い馬下を使用する。
3 地塗り磨き
  紙ヤスリで塗りムラを磨き、ノミを使い細部を切り出し、湯で濡らした晒し木綿で細かな気泡までしっかり取り除く(湯拭き)。
4 中塗り胡粉
  上質な胡粉を団子状にし、何度も叩き、膠と胡粉を馴染ませ色を入れる。
5 中塗り胡粉磨き
  下塗りより粒子の細かい紙ヤスリで丁寧に磨く。湯拭きは行わない。
6 上塗り胡粉
  中塗りに使用した胡粉を湯で薄めて上塗り胡粉に変化させ、1時間ごとに塗り重ねていく。埃に注意しながら、地塗りから数えて合計20~25回ほど塗り重ねる。