凄いのはクライマックスだけではない
1978年 監督/ ロバート・クローズ
この作品、クライマックスだけを先に撮影しておいてホントに良かったと思います!なんせ監督・主演のブルース・リーが撮影再開前に急逝してしまったのですから。リーの武道哲学がスパークする予定だった本作は、芸能界に巣食う悪徳プロモーターとアクション俳優の闘争に書き直され、新たな作品として日の目を見たのです。
その為、リー本人の出演はクライマックスの15分のみ。リー登場までの長い時間、代役のアクションを延々と見せられる為、辛辣な評価をされて来た作品ですが、この作品には何故か繰り返し観たくなる不思議な魅力があります。そして何故か観るたび、その情熱にほだされてしまうのです。
リーの代役を務めたタン・ロン、ユン・ピョウら俳優陣は、サモ・ハンキン・ポーのアクション指導と演出の下、リーには及ばずとも素晴らしいアクションを披露しました。
音楽を担当したのは007シリーズで有名なジョン・バリー。『燃えよドラゴン』のラロ・シフリンに劣らぬ、素晴らしいテーマ曲と傑作スコアを提供しました。この音楽が、作品レベルの向上に大きく貢献している事は間違いありません。
製作のレイモンド・チョウとクローズ監督が、現実を歪めた芸能界の物語を執筆。映画俳優の暗殺や、女性歌手の復讐を描きながらも、娯楽要素に比重を置いた物語を創作しました。この絶妙なさじ加減が職人芸なのです!
もう素直に認めましょう。『死亡遊戯』は傑作アクション映画です!リーが登場するクライマックスが凄いのは当たり前なんですが、ここではリー不在で作られた物語を中心に正当評価しつつ、作品魅力を紐解いてみたいと思います!
【この映画の好きなとこ】
◾︎アン・モリス (コリーン・キャンプ)
本編主人公ビリーの恋人。復讐に奔走する姿に誠実な愛を感じます!リー本人との絡みは無いものの、"リーの恋人"と脳に刷り込まれ、特別な存在になりました。
◾︎ドクター・ランド (ディーン・ジャガー)
悪徳プロモーションの社長。補聴器を付けたお爺ちゃんながら、楯突く芸能人は殺してしまう恐ろしいお方。時折り見せるユーモアと愛嬌に心を掴まれる。
◾︎バイク部隊
緑、黒、黄色のトラックスーツでバイクを乗り回すランドの手下。ヘルメットを被ったままの無機質感が奇妙で印象的。
◾︎ジョン・バリーの音楽
カードやダイス、メダルコインなど、本筋とは無関係のカジノ映像を007のオープニング風に仕上げ、最高にカッコいいテーマ曲をつけてしまうんだから文句なし!
勿論本編音楽も最高にカッコいいです!
◾︎ドクター・ランドのオフィス
ランドの手下が一堂に会する豪華な光景!リー作品の常連悪役俳優ボブ・ウォールに、本編クライマックスでリーと伝説の死闘を繰り広げるダニー・イノサント、カリーム・アブドゥル=ジャバー!
◾︎ビリーの死と再生
映画撮影中に銃撃されたビリー。偽装告別式と、ビリーの整形手術をカットバックで見せる事により、観るものを"敵を欺く共犯者"に仕立て上げる鮮やかさ!
◾︎ランド暗殺
復讐を決意し、使命感と悲壮感でオーラが増したアンが魅力的!ランド一味を殺害しようと銃を握るアンを老人が制止する。その声には聴き覚えが!
◾︎ロッカールームの死闘
クライマックスを除く最大の見せ場。サモ・ハンキン・ポーがアクション指導をした、極めてクオリティの高いアクションシーン。音楽も最高!
◾︎李三脚
漫画『北斗の拳』の北斗百烈拳などに影響を与えたと言われる怒涛の連続キック。例え早回しであろうとも、映画的ダイナミズムを具現化した名シーンとして評価されるべき!
これは凄いね!
◾︎バイクアクション
リーなら絶対やらなかったであろうバイクアクション。バイクとスーツを奪ったビリーが1人また1人と敵を倒して行く様がスリリング。
◾︎リー対ジャバー
リーが登場するクライマックス。218cmの長身から繰り出されるジャバーの圧倒的パワーに苦戦する164cmのリー。ジャバーの首を羽交い締めにし、どんなに振り払われようとも諦めない姿勢に勇気を貰う!
◾︎Will This Be the Song I"ll Be Singing Tomorrow?
ジョン・バリーが作詞作曲した至極のバラードを、アン役のキャンプが歌う。リー主演作品の名場面が流れるエンドクレジットは、追悼映像としてファンには感慨深い。
膨大な本編未使用フィルムを集めて作られたセミ・ドキュメンタリー作品『Bruce Lee in G.O.D 死亡的遊戯』が、2000年に公開されました。こちらではリーの武道哲学を説く多くのセリフが採用され、リーが構想していたものに近い作品となっていたようです。しかし、コレを観てボクは思いましたね。"クローズ監督は、本作を娯楽活劇として正しい方向に導いていたのだ"と。リーのセリフをすべてカットし、娯楽作品に徹したのは正解でした。むしろ、セリフをカットした事により、リーの神秘性が高まったとすら感じたものです(もちろん、リー監督で完成させていれば別の話ですけどね)。やはりクローズ監督は一流の娯楽映画作家です。
例えこの先、あらゆるアナザーバージョンが誕生したとしても、"変わらずにこの作品を愛し続けるのだろうな"と確信した今回の劇場鑑賞でした。
※2019年1月21日の投稿記事をリライトしました
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