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 裁判員制度がスタートしました。
 これからは、選ばれた一般市民も、裁判に携わることになります。


 裁判員制度では、重大な犯罪の判決にも裁判員が関わることになり、「一般市民も死刑の判断を下すことになる」という関心と不安の声も聞かれます。

 今回は、日本ではどのような罪を犯した時に死刑となる可能性があるのか、考えてみたいと思います。



※下記でとりあげた罪名は、死刑となる可能性がある罪であり、これらの罪を犯した場合、必ず死刑となるわけではありません。



■内乱罪 (刑法77条1項)


 日本政府を破壊して、自分がかわりに日本の統治者として君臨するなどの、いわゆる革命・クーデターを起こした時の罪です。その首謀者は死刑又は無期禁固となります。



■外患誘致罪 (刑法81条)


 外国の政府に、日本を侵略・攻撃するよう依頼して、日本に対して武力を行使させた時の罪です。外国の軍隊による侵略だけでなく、ミサイル攻撃なども含まれます。
 死刑となる犯罪の中で唯一、死刑のみが適用される罪で、現在の法律の中では最も重い罪と考えられています。



■外患援助罪 (刑法82条)


 外国の軍隊が日本に侵略してきた時に、外国の軍隊に参加したり協力したりして、外国の軍隊と一緒に日本を攻撃した時の罪です。死刑又は無期懲役もしくは2年以上の懲役になります。
 ただし、人命救助や怪我の手当などの人道的な行為への協力や、強要されてやむを得ず協力した場合などは、罪に問われないと考えられています。



■現住建造物等放火罪 (刑法108条)

 内部に人がいることが明らかで、火をつければ中にいる人が死亡することが容易に想像できる、建物や乗り物に放火した時の罪です。死刑又は無期懲役もしくは5年以上の懲役になります。
 判例では、死刑は死亡者が発生した場合に適用できるとされています。その場合、殺意の有無は問いません。(殺意については、「殺人罪」の項を参照してください



■激発物破裂罪 (刑法117条)

 内部に人がいることが明らかである建物や乗り物の中で、爆弾やボイラーなどを爆発させた時の罪です。死刑又は無期懲役もしくは5年以上の懲役になります。
 判例では、死刑は死亡者が発生した場合に適用できるとされています。その場合、殺意の有無は問いません。



■現住建造物等浸害罪 (刑法119条)


 「浸害」とは、水による被害のことです。水をあふれ出させることによって建物や乗り物に損害を与えたり、中にいる人を溺れさせたりして、公共の危険を発生させた時の罪です。死刑又は無期懲役もしくは3年以上の懲役がとなります。
 判例では、死刑は死亡者が発生した場合に適用できるとされています。その場合、殺意の有無は問いません。



■汽車転覆等致死罪 (刑法126条3項)

 人が乗っている乗り物(電車、船など)を転覆させたり、破壊する行為をした結果、死亡者が発生した時の罪です。死刑又は無期懲役となります。



■水道毒物等混入致死罪 (刑法146条)

 水道水に毒物や健康を害する物を混入し、その水を使った結果、死亡者が発生した時の罪です。死刑又は無期懲役もしくは5年以上の懲役になります。
水道管を流れている水だけでなく、その水源において混入した場合にもこの罪に問われます。



■殺人罪 (刑法146条)     

 人を故意に殺害したときの罪です。死刑又は無期懲役もしくは3年以上の懲役となります。殺人罪は、実際に自分が手を下して殺害したときはもちろんですが、自分が何もせず放置することで人が死亡することが明らかに予想できる場合にも、適用されることがあります。例えば、溺れている人がいるのに通報や救助をせず放置し死亡させたり、乳児に食事を与えず餓死させたりした場合です。また、重傷者の死期を早める行為にも適用されます。


「殺人」と「致死」の違い

 「車の運転中に前方不注意で人をはねてしまい、死亡させてしまった」というような場合など、人を殺害する意思がなかったけれど、結果的に人を殺してしまった時には、「殺人」ではなく、「過失致死」という別の罪になります。


 また、「傷をおわせはしたが、殺そうとまでは思っていなかった」という場合も、殺人罪とはなりません。この場合には、「傷害致死」という別の罪になります。

 よって、殺人罪に問われた裁判では、「殺意があったか(はじめから殺そうと思っていたか)」ということが争点になります。どのような動機で犯行に及んだかや、殺傷の後に傷の手当てをしようとしたかなどから、殺意の有無を検証することになります。


どんな殺人事件の場合に死刑が適用されるのか

 1968年(昭和43年)に、盗んだ拳銃を使って全国各地で立て続けに4人を射殺するという「永山則夫連続射殺事件」が発生しました。

 この事件で殺人罪で逮捕され、死刑が確定した永山則夫の判決において、殺人罪において死刑を適用する基準が示されました。

 これ以降の殺人事件の死刑判決では、この裁判を基準とすることが多いようです。このことから、この裁判の判決は、「永山基準」とも呼ばれています。

 具体的には、①犯罪の性質 ②犯行の動機 ③犯行態様、特に殺害方法の執拗性、残虐性 ④結果の重大性、特に殺害された被害者の数 ⑤遺族の被害感情 ⑥社会的影響 ⑦犯人の年齢 ⑧前科 ⑨犯行後の情状 を総合的に考慮して死刑を適用するかを判断します。


 この事件以降の殺人罪の判決は、4名以上を殺害した場合は、犯行時の心神衰弱や自首の認定などによる減刑が認められない限り、原則として死刑が適用されています。


 ただし、近年の厳罰化の傾向により、1名殺害でもその殺害方法が計画的で残虐な事件では、死刑判決が出される例もあります。

 

 裁判員制度の導入の目的のひとつとして、「裁判の判決に、国民の日常感覚と常識を反映させる」という理由もあります。
 裁判員制度の開始によって、殺人罪においても死刑を適用する基準は、今後変わっていく可能性もあります。



■強盗致死罪・強盗殺人罪 (刑法240条後段)

 強盗に入った結果、人が死んでしまったり、人を殺害してしまった時の罪です。死刑又は無期懲役となります。殺意の有無は問いません。
 判例では、強盗の際に起きた暴行で死亡させた時だけでなく、強盗時に発生した死に関しても適用されます。たとえば、店に強盗に入り、店員を縛ろうとしたらその恐怖で心臓発作を起こして死亡してしまったような場合でも、この罪に問われます。

 
■強盗強姦致死罪 (刑法241条)

 強盗に入り強姦した結果、人が死んでしまった時の罪です。死刑又は無期懲役となります。強姦中の死亡以外は、他の罪(強盗致死罪+強姦罪)として考えられています。



■組織的な殺人罪 (組織的犯罪処罰法3条、刑法199条)

 オウム真理教が「地下鉄サリン事件」を起こしたことで、組織的な犯罪の増加が懸念されたことから議論され、新しく定められた罪です。組織的に殺人事件を起こした場合は、死刑または無期懲役、もしくは6年以上の懲役となります。



■人質殺害罪 (人質強要行為処罰法4条)

 身代金や逃走を要求するために誘拐した人質を殺害した時の罪で、死刑又は無期懲役になります。通常の殺人罪よりも罪が重くなります。



■航空機強取等致死罪 (ハイジャック防止法2条)

 暴力や脅迫で飛行機を乗っ取り(いわゆるハイジャック)、その行為によって人を死亡させた罪で、死刑又は無期懲役になります。



■爆発物使用罪 (爆発物取締罰則1条)

 治安や人の身体・財産を侵害する目的で、爆発物を使用したときの罪です。死刑又は無期懲役もしくは7年以上の有期懲役または禁固となります。



※ おことわり ※

 本文では、平易な説明をするために、細部の説明を省略しているため、正確な実態とは齟齬がある場合があります。
 また、当事務所の政治的見解や、死刑制度の是非などの意見を主張を示すものではありません。