そして迎えたお通夜の日。

自宅からお父さんを祭儀場に連れて行く日。

祭儀場ではクラクションが鳴らせないとの事で、自宅前からクラクションを『ファーン』と鳴らしてもらった。

そしてゆかりの地を通ってくれると言うので、お父さんの仕事場を通って祭儀場へ。

祭儀場会場に着いたら納棺の儀が始まった。

お父さんの好きな服を着せてくれて、そして入院中に新しい入れ歯を作っていたらしく、病院の計らいで、作り途中だけど新しい入れ歯を頂き、お父さんの口の中に当日に入れてもらった。

入れ歯を入れたら少し顔が若返った。

ここからが素晴らしいなって思ったんだけど、ちゃんと髪の毛を洗ってくれる。

美容院の持ち運びができる簡易的な洗面台みたいなのを頭の下に入れ、ちゃんとシャワーが付いていて、シャンプーをして頭をあらってくれる。

2人ぐらいだったら髪の毛を洗えますよ。

と言われて、お母さんとお兄ちゃんにお父さんの頭を洗ってもらった。

死後硬直が解け、ぐにゃんぐにゃんになる首。

温かいお湯で洗ってくれているらしく、頭は生きている時と同じぐらい柔らかくて温かかったと言うお母さんとお兄ちゃん。

シャンプーをし終わったら、今度は洗い流す作業に。

こちらも2人ぐらいだったら洗ってもいいと言うので、お姉ちゃんとお兄ちゃんの奥さんと子供(私にとっては姪)がシャンプーを洗い流してくれた。

シャンプーを洗い流し終わったら、次は乾かす作業に。

まさかドライヤーで乾かしてくれるの?

と思ったら、ちゃんとドライヤーで頭を乾かしてくれた。

綺麗になった頭を今度はカラーリングする事に。

『どれぐらい黒くしますか?』

と聞かれ、

『50代ぐらいにしてください!』

と答えた。

髪をすぐに黒くするスプレーを髪全体に掛けてくれた。

真っ黒になった髪の毛と髭の顔を見て

『あれ?全くの別人じゃない?!違う人を連れてきた?!』

と思うほど若々しく、髭を生やしたダンディーな殿方になった。

見た瞬間、お父さんはまだ生きていて、本当に別人を連れてきてしまったとなればいいのにって思ってしまった。

でも、現実は違う。

髭を生やしたままだと本当に別人に見えてしまうので、髭は全て剃ってもらった。

ついでに出てる鼻毛も一緒に切ってもらいました(笑)

そしたら、若い頃のお父さんに戻りました。

癌と膠原病を患っていたけど、げっそりする事もなく、薬の副作用で顔が少し浮腫んでいたので、

『ちょっとむくみを取れませんかね?』

って納棺師の方にお願いしたら、顎あたりをマッサージしてくれて、少しむくみが取れた!

最後に化粧(男性なのでファンデーションだけ)してもらい、本当に生きていて寝ているような顔にしてくれました。

そのあと全員で口元に水をあげ、そして湯灌の儀へ。

昔はタライにお湯を入れて遺体を洗い清めていたようですが、最近ではアルコールで身体を拭く『拭き湯灌』が一般的になったらしく、私たちも『拭き湯灌』をさせてもらいました。

『湯灌の儀』は、亡くなった人への最後の奉仕のようです。

今まで、怖くて遺体に触れられなかった。

お兄ちゃんが(私には8つ上の兄が居て25年前にバイクの事故にあって)亡くなった時
11才の私には亡くなった人が怖くて触れなかった。

身体があるのに動かないお兄ちゃんが怖かった。

だから、触れられなかったし、見れなかった。

だけど、大人になった今、自分をこの世に産み出してくれたお父さん。

肉体に触る事が最後になると思ったら、そんな事を言ってる場合じゃないと思った。

納棺師さんが

『肉体がまだこの世ある時はまだ耳が聞こえます。話しかけながら拭いてあげてください』

と言うので、お父さんに話しかけながら、お父さんの身体を拭きました。

死後硬直が解けているので、身体は柔らかい。

ただ体温がない。

冷たくなった身体。

体温があれば生きている時と変わらない。

なんで、生きている時にもっとお父さんの身体に触らなかったんだろう。

なぜ恥ずかしがってハグをしなかったんだろう。

って思った。

アメリカなら、会った瞬間に『元気だった?』って言いながらハグをするのに、日本人はハグをするのを恥ずかしがってしない。

私がアメリカ人だったらお父さんと恥ずかしがらずにハグが出来たのにって後悔した。

最後にお父さんに触ったのは亡くなる1週間前に『帰るね。またお見舞いに来るね』って横になってるお父さんの身体にポンポンって触れたぐらい。

その日お父さんに

『メールで一斉送信するのはどうやってやるんだ?』

って聞かれて、お父さんの携帯を使って、ベットにお父さんの隣に座って『こうやって、こうするんだよ』って教えたのがお父さんの一番近くにいた最後の時。

家族に連名でメールくれるんじゃ無かったの?

一件も来なかったから淋しいよ。

そう思いながら身体を拭いてた。

湯灌の儀も無事に終わり、お父さんを棺に入れる時が来た。

皆でお父さんを棺に入れる。

棺の中には私がお父さんに送った手紙も入れた。

お父さんが60才の誕生日の日に送った手紙を大事に取っていてくれた。

その手紙を読んだ時書いた私も笑っちゃうんだけど、

『お父さんはハゲてないし、60才には見えないし、連れて歩いても恥ずかしくない。自慢のお父さんです』

って書いてあった。

私にとって、本当に自慢のお父さんでした。

棺の中で生きているかの様に眠るお父さん。

お父さん。

起きないかなぁ。