読んだ本
アトミック・ボックス
池澤夏樹
毎日新聞社

2014.02

 

ひとこと感想
物語はよくできているし、問題提起としても、スマート。だが、簡単に言ってしまえば、ナウシカ原子力版。個人的には、実父の死に際がこの物語と重なってしまうため、思い入れがどうしても入ってしまうが、そうではない場合、どう読めるか、むしろ感想が聞きたいところである。

 

著者略歴
1945年北海道生まれ。作家、詩人。1988年「スティル・ライフ」で芥川賞、1943年「マシアス・ギリの失脚」で谷崎潤一郎賞、2000年「花を運ぶ妹」で毎日出版文化賞、2011年個人編集の世界文学全集で朝日賞、ほか受賞多数。他に著書「きみが住む星」など。

 

概要

28年前の父の罪を負って娘は逃げる、逃げる…「核」をめぐる究極のポリティカル・サスペンス! 父には知らない顔があった。美汐27歳。28年前の父の罪を負って、瀬戸内海の逃避行。追手はあまりにも大きい…。原爆、国産プロジェクト。震災後文学最高峰、「核」をめぐるポリティカル・サスペンス。

 

作者の想像力に脱帽した。

 

一般的に言われているのは、日本の核に対する意識は、米国支配に対するアンビバレントな関係だ。

 

核兵器によって敗戦した国であり、その核兵器を持った国に支配され、そこから独立した国。

 

だがそれが本当の意味での「独立」になりきれていないジレンマに苛まされている国。

 

日本における「核」に対するメンタリティは、簡単ではないのだ。

 

そうした前提をベースに本書は、見事な物語を紡ぎだしている。すなわち、北朝鮮との関係性である。

 

北朝鮮とは、言わば、日本の「対偶」のような関係にある。

 

日本は、核兵器を持たない。

核兵器を持つのは、北朝鮮である。

 

この「日本」がもしも、北朝鮮の核開発に大きく影響を与えていたとしたら、どうであるのか。

 

それが、本作における、見事な問題提起であるだろう。