高校2年生の時、私は物理が大嫌いだった。
嫌いというよりも全くわからなかった。
滑車がどうのオモリがどうの、
いまだに何の役に立つのかわからない。
当時の物理の先生は講師で、6大学でも講師をやっている先生だった。
だからかどうか、生徒達が何をやっていても注意しない。
物理の授業は、私にとってはトランプの時間だったのだ。
静かにざわついている教室の中で、
制服が6人くらい後ろの方で固まってトランプ。
窓から見えるのはテニスコート3面だけの緑のゴムの校庭。
聞いてない授業を理解出来る人間はいない。
2学期は赤点を取ってしまった。
トランプ仲間の一人にユキオちゃんという男の子がいた。
彼はハンサムではなかったがキリッとした顔立ちで、
いつも髪型を気にして鏡ばかり見ていた。
ある日、トランプ仲間の他の男の子が
「この間、体育館でユキオちゃんの上履きを
借りようと思ったら足が入らないんだよ」
と言う。
「サイズが小さかったんでしょ?」
「ううん、違うんだ。
ユキオちゃん上履きの中敷きの下に色々敷いてるみたいで
かかとが浮いちゃうんだよ」
「え?なんで色々敷くの?」
「わかんないの?ユキオちゃんの上履きは
手製のシークレットシューズになってるんだよ」
ガ━━(= ̄□ ̄=)━━ン!!
自称160㎝のユキオちゃんが
160㎝ない事はみんなわかってたけど、
そんな手間かけてまで大きくなりたかったんだ・・・。
「えっ、でも上履きだけシークレットになってても意味ないよね」
「革靴も体育館履きも、
ユキオちゃんの靴は全部シークレット仕様になってるんだよ。」
・・・・・。
男の人にとって身長のコンプレックスというのは
かなり大きいものらしい。
金正日は、12㎝大きくなる
シークレットシューズを履いているという。
指導者たるもの、威風堂々と背が高くなくてはならないのだ。
コンプレックスって目には見えない。
それから、高校2年2学期の赤点は、
冬休みに物理の先生にハガキを書いた。
先生、私は一体どうしたらいいんでしょうか?って。
それだけで3学期は5段階の3がついていた。
世の中を渡るコツのようなものを掴んだ17歳の春。
それにしても
金正日とユキオちゃん、どっちが背が高いんだろう?