私が中学生のときの話です。ある夜、飼い犬のホピ(仮名)が私の所へ来ました。ホピは放し飼いです。今では許されない放し飼いですが、昔の田舎では放し飼いは普通にありました。
ホピは何度も私に「ついて来い」の仕草をするのです。
これは何かあったぞ、と思った私は、家族がケガでもしたのかとホピについて行くと、何の事はない、他の犬とケンカして負けたので、私に加勢を求めただけでした。
私を後ろ楯にしたホピは、その犬を追い払いました。たいして強そうじゃない犬だったから良かったけど、獰猛な犬だったら困ります。
ホピは毛がふさふさで見た目ではわからないけど、ガリガリの犬です。力も弱く、むろんケンカも弱い。それなのに、ちょくちょくケンカをするのです。
思うに、ホピはプライドが高いので、それが原因でケンカをするのではないか?
弱いホピは、ある時、ケンカの必勝法を編み出しました。それは相手の耳に噛みついて、いつまでも離さない事です。どんな大きな犬も、耳は薄いのです。そこに噛みついて、いつまで経っても離さないから、大抵の犬は音を上げます。
いじめられっ子がケンカの時に、泣きながら相手にしがみついて、いつまでも離さないみたいなものです。
この耳噛み戦法をやられると、ケンカをやめさせようとしてもホピが耳を離さないので、私としても困ります。
ある日、ホピの悲鳴が聞こえた後、ホピの背中に焼け火箸で突いたような跡がありました。どうもホピと近所の犬の抗争が始まって、相手方の飼い主がホピの耳噛み戦法に手を焼いて、ホピに悲鳴を上げさせたようです。悲鳴を上げれば、ホピも相手の耳を離さざるをえないからです。
その後もホピと近所の犬の抗争は続き、その近所の犬の飼い主のおばさんが、私の見ている前でホピに何度も蹴りを入れました。
誰だって自分の飼い犬は可愛い。相手が耳噛みのホピですから、おばさんは自分の犬を守ろうと必死でホピを蹴り転倒。その時のケガを近所の人に、ホピに噛まれたと言っていました。ホピは噛んでいません。でもケンカするホピが悪い。
普通の犬は耳噛みなどせず、堂々と正面から戦って雌雄を決するのですが、人一倍(犬一倍?)弱いホピは、弱いからこその必勝法を使ったのでした。