ココ(仮名)は、人懐っこい犬でした。

ところがいつの頃からか、頭を撫でられると怒るようになりました。

ある人に言わせると、頭を撫でた人の中に痛い触りかたをする人がいた場合、そうなることがあるそうです。

私が頭を撫でても、長時間撫でるとココは怒ります。

その日の気分によっては、頭を触った瞬間に怒る場合もあります。最初はそんな犬じゃなかったのに。

ある日、ココと散歩していると、向こうから小学生女子の3人組が歩いて来ました。車道を渡った反対側です。見た感じでは4年生ぐらいでしょうか。

そしてその中の一人がココを見て「可愛い」と言いました。

私は嫌な予感がしました。

すると案の定、女の子の一人(可愛いと言った子)が道路を渡って、ココの所にやって来ました。

それで私は、その女の子に「触らないでね」と言いました。触るとココが怒るかもしれないからです。

その女の子に言葉をかけている間に、気づいたら他の二人の女の子もココのそばに来ていて、一人がココを撫でていたのです。

先ほどの女の子の側ではなく、少し離れていたので、最初に来た女の子に気を取られていて気づきませんでした。

ココは触られると怒る場合があります。それゆえ、最初に来た女の子に触らないように言っていました。しかし私がそちらに注意を向けている間に、他の女の子がすでにココを触ってしまっていたのです。

マズイ、そう思ってココのリードを引っ張った瞬間、ココは撫でていた女の子の腕に噛みついていました。

女の子は泣いていました。

私も、頭が真っ白になりました。怒るとは思ったけど、まさか噛むとは思わなかったからです。

何とかココを引き離して、女の子に謝りました。それから、いつまでもココを女の子に近づけていて、また噛むと困るので、ココを連れて離れました。

女の子はずっと泣いていたので(犬に噛まれたので当たり前だし、かなり痛かったと思います)、泣き止むまでココを連れて近くにいるのはよくないと思ったからです。自分を噛んだ犬がいつまでも近くにいたら、女の子も怖いだろうし、それもあって女の子が泣き止む前に立ち去りました。本当は女の子にもっとちゃんと謝りたかったのですが、そんな状況ではありませんでした。

その後、警察のご厄介になりました。

私にも言い分があります。女の子が3人揃って来てくれれば、3人全員にココに触らないように言えました。それなのに時間差で来るから、最初の女の子に気をとられているうちに、事件は起きてしまったのです。

さらに、噛まれた女の子がココを触る前に、触っていいか聞いてくれたら、やはり触らないように言えました。それなのに女の子は黙って触っていた。

そもそも女の子たちがココのところに来ずにそのまま通り過ぎてくれていれば、事件は起こらなかった。私にすれば巻き込まれた感じです。

とは言え、ココが人を噛んだのは事実です。

警察で事情聴取され、その時に確認のためと称して、指紋を押させられました。警察は指紋は文章を確認したという証のためのもので、他の用途には使わないと言います。だったら、なぜ指紋なのか。サインでもいいのではないのか、と思いました。

しかしこちらは、犬が人を噛んでしまって事情を聞かれている身です。警官に言われるがままに指紋を押すしかありませんでした。この指紋は警察のデータベースか何かで、永久に保管されるのではないかと思いながら。

その後、獣医さんに行って、ココが狂犬病では無い確認をしてもらいました。

さらに保健所にも行きました。ここで、ある事実を知るのです。

私はココが女の子を噛んだ後、女の子に謝って、それからココを女の子から引き離すために連れて行きました。

それが、「黙って立ち去った」事になっていたのです。

女の子の親が警察に通報したのも、黙って立ち去った事に腹を立てたからです。

でも、それは誤解です。

私が思うに、私が謝っているとき、女の子は泣いていました。それで、私の謝罪が聞こえなかったのでしょう。

保健所では、私が嘘をついているという態度を取られました。女の子の証言だけを鵜呑みにして、それと矛盾する私の証言は嘘だと決めつけられた感じです。

私が保健所で事件のあらましを語ったとき、「(女の子に私が)謝って」と言ったとたん保健所の人に言葉を遮られ、「(向こうから)いろいろ聞いています」と言われました。この時点では私はまだ、無言で立ち去ったことになっているとは知らなかったのですが、この保健所の人の、こちらの言葉を遮る態度でだいたいを察しました。

家族にさえ、私が黙って立ち去ったせいで警察の厄介になったと思われました。そして家族が小声で、私が謝りさえすれば警察沙汰にまではならなかった、ということを話し合っている声が聞こえてきて、私が謝罪もしない常識のない人間扱いされている事がわかりました。

後日、保健所の人が家に来たとき、なぜ黙って立ち去るような事をしたのかという話題になったので、私は黙って立ち去ってない事を説明して、納得してもらいましたが、今でも残念な想い出です。

そして果たして、本当に私が謝罪したことを信じてもらえているかは疑問なのです。被害者がウソをつくはずがない(ウソはついてないでしょうけれど、泣いていて私の声が聞こえてなかったので、後で親に聞かれたとき謝罪してなかったと答えた可能性が高いのです。まだ小学校の4年生かそれぐらいの年齢ですから、自分が泣いていて相手の声が聞こえていなかったかもしれないとは考えなかったかもしれません。だから自分の記憶を正直に話した結果、私が無言で立ち去ったことになったというのが、私としては一番しっくりくるのですが)という決めつけから、それに反する私の証言は、自分を守るための虚偽の言い訳と思われているかもしれないからです。ただ、それを指摘すると話がややこしくなるため、表向き私の説明に対して理解したふりをしているのではないかと思ってしまうのは、被害妄想すぎるでしょうか。

ココに噛まれた女の子はウソなど言うはずはないのです。そこまでは当たり前のことですが、事実を誤認している可能性をまったく考えずに、頭から私の言うことをウソだと決めつけられた事が残念なのです。

ココに噛まれた女の子には、嫌な思いをさせてしまいました。その女の子には痛い思いをさせてしまったし、傷跡など残っていないかトラウマになってしまわないか心配です。本当に申し訳ないです。

向こうの親御さんは、こちら側の治療費の支払いの申し出もお断りになったし、警察の人が間に立ってくれたこともあり、最後は握手して別れました。相手側はあくまで私が無言で立ち去ったという、こちらのその態度(実際は謝ってから、犬を引き離すために移動したのですが)に納得ができなかったから警察に言っただけで、治療費だとか慰謝料とかそんな事を求めるためではありませんでした。

私のほうに非があるのは認めますが、一方的に無言で立ち去ったことにされ、私のほうの言うことを信じてもらえなかったことは残念でした。