エキス(仮名)が病気になって、獣医さんに通っていた時の話です。
獣医さんは、老齢の方でした。
その獣医さんに行くと、母屋と離れたところに診療所があって、そこで治療します。
獣医さんが母屋から、診療所のところに来ると、母屋の方から何かが這ってくるのです。
それは脚が4本とも折れた犬でした。
獣医さんに聞くと、交通事故に遭った犬を引き取ったとのこと。
その犬は、脚が4本とも折れているので、立ち上がることができません。
それでも必死に這って獣医さんのそばまで来て、喜んでいるのです。
そこには、立てなくなった事に対する悲観はありません。
ただ生きる歓び、大好きな獣医さんと一緒にいられることの喜びだけです。
人間であれば、もう立って歩くことが出来ないとなったら、悲観するでしょう。
事実、こういう事がありました。美容外科で脚の静脈瘤を手術した女性が、間違って違うほうの血管を切られて、片足を切断することになりました。その女性は、それを悲観して自殺してしまいました。
しかし、犬には悲観はありません。ただ生きている。それも喜びながら生きている。
私は、この脚が4本とも折れた犬が、必死に這って、それでも嫌そうにせず、喜んでいるのを見て、泣きそうになりました。
与えられた命を喜んで全うする、それを犬に教えられた気がしたからです。
エキスの病気は、ついに治る事はありませんでしたが、最後まで獣医さんは治療を続けてくれました。
エキスも病気を悲観せず、家族との生活を楽しみ、その生涯を全うしました。
エキスは15歳まで生きてくれました。ホピは16歳でした。
どちらの犬も、寿命が来るまで看取ることができました。
チック(仮名)は残念でしたが、他の犬は家で亡くなりました。最期の日まで家族といられて、犬も幸せだったと思います。
エキスは病気がなければ、もっと生きられたと思うので、それが残念ですが、それでも治療しながら、なんとか15歳まで家族と過ごしました。