マーケティングの世界へのチャレンジ
USJのV字回復で有名なマーケターである森岡毅氏は次のように言います。
「日本はマーケティング発展途上国です。マーケティングには消費者の購買行動を決定的に変える力があるのに、多くの会社がその力を活かせていません。市場が右肩上がりで成長する過去においては、素晴らしい技術力や現場力で成功してきた多くの日本企業も、国内市場の縮小や世界市場でのシェアの削り合いを勝ち抜くためにはマーケティング力の強化が必須です。逆に言えば、マーケティングができる組織になることで、多くの企業がまだまだ成長できます。私は、マーケティングが日本を変えると信じているのです」(森岡毅「マーケティングとは組織革命である」・日経BP社・2018年)
最初に、私の考え方をお話ししておきます。
私はマーケティングについて、様々な本を読んでいますが、森岡毅氏の本に書かれている内容が最も腑に落ちます。そのため、森岡氏の言葉を引用することが多いのですが、私は心から森岡氏の考えに共感していますので、その点はご了承ください。
私は、以前、マーケティングを誤解していました。当時、私がマーケティングという言葉を聞いていつもイメージしていたエピソードがあります。それは、裸足の国で靴を売るセールスマンの話です。もしご存じない方がいらっしゃいましたら、様々なブログで語られていますので、検索して覗いてみてください。その話から私が感じ取っていたことは、もともと顧客にニーズのない商品でも、伝え方ひとつでニーズを喚起して市場を作ることができるということです。つまり、どんな良い商品でも、売り方が悪いと売れないが売り方が良ければ売れる。だから、その売り方を考え、市場をつくることが大切である。そのようなことに知恵を絞って市場をコントロールして売れるようにすることがマーケティングであると思っていました。
しかし、森岡毅氏の取り組みを知り、マーケティングに対するイメージが変わりました。
森岡氏がUSJで行ったことの本質は、売り方を工夫したことではありませんでした。勿論、売り方は工夫しました。しかし、そこが本質ではないようです。森岡氏は、顧客満足度を高めるテーマパークにするために考え抜きます。考えるためのフレームワークはマーケティングの技術ですが、どこに最もエネルギーを費やしたかというと、「見込み客がどうすれば感動するか、どうすればテーマパークに来てくれるか。そのためには、どんなアトラクションをつくれば良いか、どんなテーマパークにすれば良いか」を考えることでした。その上で、もっとエネルギーを費やしたのは、顧客に喜んでいただけるテーマパークになるために全力を尽くすことができ、変化できる組織をつくることでした。
例えると、恋人と仲直りするためにどうすれば良いかを考えることと同じことです。喧嘩して溝ができてしまった恋人と仲直りするためには、恋人の心理をよく理解する必要があります。下手をして心理を読み間違えると更に溝が深まりかねません。よく心理を理解し、気持ちが解ける方法を考えます。じっくり話し合って気持ちを聞くという方法もありますし、好きなものをプレゼントする方法もあります。また、真心を込めて謝罪するという方法もあります。また、どこか心を開いて話しやすい場所に誘うことも必要かも知れません。
それを考えるとき、恋人の心理を理解すること以上に自分のこれまでの生き様や考え方を優先して考えると上手くいかないことが多いかも知れません。最も良い方法はやはり、恋人の心理をよく理解することを最優先して考えることです。恋人の心理をよく理解した上で、方法を考えて実現することで仲直りが成功する確率は高くなります。
それと同じことです。顧客の心理をよく理解することから始めなければなりません。
そして、アイデアを考えること。
そして、それを実現できる組織でなければアイデアを実現できません。
私は、以前はマーケティングは「セールスが楽になる売り方の技術である」と思っていましたが、今では「顧客に喜びと感動を与えるために、顧客価値を実現するための技術である」と思うようになりました。
どのような企業にも、存在目的があると思いますが、マーケティングはその目的を達成するために必要不可欠な能力であると言えます。そのことは、森岡毅「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」 (角川文庫) 文庫 – 2016を読んでいただくと納得していただけると思います。
森岡毅氏は、USJで、マーケティング主導でプロダクトを開発、システムを作り、広告手法の開発を行うことはもとより、マーケティング主導で動く組織を作ることに成功したと言えます。
冒頭の森岡毅氏の言葉に戻ります。
日本が、マーケティング発展途上国と言われるのは、マーケティングを誤解している人が多いからなのではないかと思います。欧米から輸入された概念というイメージで、市場調査と宣伝手法を組み合わせたようなものと考えられている向きはないでしょうか。
もし、そのようにマーケティングを捉えてしまうと、「良いものを作ること、そして分かりやすく宣伝することが大切なことであり、マーケティングは広報の一部として専門家に任せればよい」という考えになるかも知れません。
しかし、マーケティングを本当に理解すると、マーケティング部は企業の心臓のような部署であり、社長を中心として、企業全体がマーケティング主導で動くべきであると理解できるはずです。
日本の多くの企業で、マーケティング部がどのように位置づけられているかを調べて見てください。
アメリカでの扱いと根本的に違うことに気づくと思います。
そのことが日本がマーケティング発展途上国と言われる主要な原因なのではないでしょうか。