「未来を予測する」のではなく、「今あるもの」から未来をつくる
なぜ、この本を手に取ったのか
この本を手に取ったきっかけは、仕事で関わっているイベントの中で「エフェクチュエーション」という考え方を知ったことだった。
もともとは、優れた起業家が不確実な状況の中でどのように意思決定し、事業を前に進めているのかを体系化したものだという。
ただ、話を聞いていて感じたのは、これは起業家だけのための考え方ではないのではないかということだった。
仕事はもちろん、自分の私生活にもかなり応用できそうだった。
特に共感したのが、**「まず小さく始める」**という考え方。
これは以前から自分自身が何となく大切にしてきたことで、それがエフェクチュエーションという形で整理されていることに納得感があった。
そこで、改めてエフェクチュエーションについて深く知りたいと思い、本書を読むことにした。
DXも「小さく始める」でいいのではないか
仕事でDX支援をしていても、「小さく始める」ことの重要性を感じる。
DXのセオリーとしては、まず企業の方針や目指す姿を整理する。その後、業務を棚卸しし、業務フローを可視化する。そして業務そのものを見直したうえで、必要なデジタルツールを導入する。
確かに正しい。
ただ、これをきちんとやろうとすると、かなりの時間と労力が必要になる。それを進められる人材も必要になる。
そして、この**「正しい手順を踏まなければならない」という発想そのものが、DXがなかなか始まらない理由の一つになっているのではないか**と以前から感じていた。
だったら、目の前にある小さな課題を、まずデジタルで解決してみる。
効果が出れば、次の課題に取り組む。
実際、自分の組織でもこうした進め方を試し、その有効性を感じることがあった。
最初から全体最適を完成させるのではなく、失敗しても大きなダメージにならない範囲で、まずやってみる。
本書を読むと、これは「許容可能な損失」の原則に近い考え方だった。
自宅の外構もエフェクチュエーションだった
これは仕事だけではない。
以前、自宅の外構を全体的にきれいにしたいと思い、業者に見積もりを取ったところ、500万円程度かかることが分かった。
そこで500万円をかけて一気に完成させるのではなく、自分でできるところから少しずつやってみようと考えた。
まず人工芝を敷く。それができたら、次は何かを作ってみる。
やってみると知識が増える。できることも増える。そして、最初には想像していなかった次のアイデアも出てくる。
そもそも外構工事の素人なのだから、最初から完璧な完成形を設計して、そのとおり施工することなど難しい。
今持っている知識や道具でできることから始める。失敗しても困らないくらい小さく試す。そこで得られたものから、次に何をするかを考える。
考えてみれば、これもかなりエフェクチュエーション的だった。
エフェクチュエーションの5つの原則
1.「手中の鳥」の原則
今、自分が持っているものから始める
エフェクチュエーションでは、最初にゴールを決め、そのために必要な資源を集めるのではなく、まず自分の手元にあるものを見る。
基本となるのは、
-
私は何者か
-
私は何を知っているか
-
私は誰を知っているか
という3つ。
そして、**「今あるものを使って何ができるか」**を考える。
印象的だったのが、「ゲーム&ウオッチ」と「ボンカレー」の事例だった。
任天堂のゲーム&ウオッチは、液晶電卓の需要が頭打ちになっていたシャープの技術と任天堂との接点から生まれた。
大塚食品のボンカレーも、大塚グループがすでに持っていた点滴液などの殺菌技術を食品に応用することで開発された。
どちらも、
すでに持っている技術 × 新しい用途
から生まれている。
「何を作りたいか」から必要なものを集めるのではなく、**「今、自分たちが持っているものから何ができるか」**を考える。
この発想は、スタートアップ支援でも使えると思った。
「何をやりたいですか」と聞く前に、
あなたは何者で、何を知っていて、誰を知っているのか。
そこから考えてみる。
2.「許容可能な損失」の原則
本当に必要な資源はどれくらいか
この本の中でも、自分が特に共感した原則。
新しいことを始めるとき、「どれくらい儲かりそうか」だけで考えるのではなく、
「失敗したとしても、自分が許容できる損失の範囲か」
を考える。
そして重要なのが、
本当に必要な資源はどれくらいか。
という問い。
最初に投入する資金、人員、時間が大きければ、当然、失敗した場合の損失も大きくなる。
不確実性が高く、やってみなければ分からないのであれば、最初の一歩をできるだけ小さくする。
まずは、新たな資源投入を必要としない行動から着手する。
「やるか、やらないか」ではなく、
「どこまで小さくすれば、とりあえずやってみることができるか」
と考える。
これはDXにも、私生活にも、そのまま使える考え方だと思う。
3.「レモネード」の原則
想定外をチャンスに変える
「レモネードの原則」は、予期せぬ出来事や偶然を避けるのではなく、新しい可能性を生み出す材料として活用するというもの。
大きな成功につながるような幸運な偶然は「セレンディピティ」と呼ばれる。
ただし、偶然が起きただけではセレンディピティにはならない。
偶然に気づき、それを活用する行動を起こして初めて「幸運な偶然」に変わる。
本書では、そのための4つのステップが紹介されていた。
-
予期せぬ事態に気づく
-
同じ現実に対する見方を変える(リフレーミング)
-
予期せぬ事態をきっかけに、手持ちの手段を拡張する
-
拡張した手段を使って、新たに何ができるか考える
特に面白いのが「リフレーミング」。
「予定と違う。どう元に戻そう」ではなく、
「この出来事を別の角度から見たら、何か可能性はないか」
と考える。
セレンディピティとは、単なる運の良さではない。
偶然を待つのではなく、起きた偶然を活用する。
4.「クレイジーキルト」の原則
人との相互作用が、想定外の未来をつくる
印象的だったのが、少年時代のスティーブ・ジョブズの話。
12歳だったジョブズは、周波数カウンターを自分で作りたいと思ったものの、必要な部品を入手できなかった。
そこで、ヒューレット・パッカードの創業者が近くに住んでいることを知り、電話帳で電話番号を調べ、直接電話をかけた。
「部品を分けてほしい」と頼んだのである。
偶然本人が電話に出て、部品を提供してくれただけでなく、夏休みにHPで働かないかと誘われた。
その後も関係は続き、やがてApple創業へとつながる人間関係も生まれていった。
多くの人は、
「そんなことを頼むのは図々しい」
「断られるだろう」
と思って、電話をかけないかもしれない。
でも、一本の電話から未来が変わった。
未来が不確実であることは、計画どおりにいかないということでもある。
しかし同時に、
自分が想像していなかった、もっと面白い未来へ進む可能性がある
ということでもある。
人に働きかける。そこで生まれた関係から、また次の可能性を考える。
クレイジーキルトの原則は、人との関係によって未来そのものを作っていく考え方なのだと思う。
5.「飛行機のパイロット」の原則
未来を予測するより、今をコントロールする
コントロール可能な活動に集中し、予測ではなくコントロールによって望ましい成果に帰結させる。
飛行機のパイロットは、事前に設定した航路だけを見て飛んでいるわけではない。
計器の数値、視界、天候などを確認し、
「予定どおり進んでいるのか」
「何か想定外のことが起きていないか」
を察知しながら、自ら操縦桿を握り続ける。
起業家も同じ。
未来に起こることを完璧に予測するのではなく、「今ここ」で自分がコントロールできることに集中する。
行動すれば、新しい情報が得られる。
新しい人に出会う。
想定外のことも起きる。
そして手持ちの手段が増える。
そこから、また次の行動を考える。
未来を「当てる」のではなく、行動によって未来を「つくる」。
この考え方が、5つの原則全体を貫いているように感じた。
「私は誰か」を考える――ワークグラム
5つの原則以外で印象に残ったのが、自己理解のための**「ワークグラム」**だった。
面白いのは、単純に「自分の得意なこと」を棚卸しするものではないこと。
自分が好きではないのに、努力によって得意になった能力やスキルは排除する。
そして、本来の「純粋な喜び」や「関心」の軸だけで自分自身を可視化する。
長く仕事をしていると、本当は好きではないのに、必要に迫られて何度もやった結果、得意になってしまったことがある。
すると周囲からは、
「それが得意なら、それを仕事にすればいい」
と言われる。
でも、「できる」と「好き」は違う。
ワークグラムでは、
自分は何をしているときに純粋に楽しいのか。
を考える。
これは「手中の鳥」の中でも、特に**「私は誰か」**を考える方法として面白かった。
「やりたいこと」が分からなければ、関心軸を探す
関心軸を言語化することは、「そもそも何をやりたいのか分からない」という人にも有効だという。
そのためには、子どもの頃から現在までを振り返る。
-
どんな経験をしてきたか
-
どんなときにワクワクしたか
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何に夢中になったか
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どんなときに悔しかったか
-
何に強く反応したか
面白いのは、「好き」や「楽しい」だけでなく、「悔しい」も手がかりになること。
なぜ、それほど悔しかったのか。
なぜ、それだけは放っておけなかったのか。
その裏側には、自分が大切にしているものがある。
「これから何をやりたいか」が分からなければ、無理に未来から答えを探さなくてもいい。
これまでの人生で、自分の感情が強く動いた瞬間を拾い直す。
そこから、自分の「関心軸」が見えてくる。
これも「手中の鳥」なのだと思う。
読み終えて
未来を予測できないことは、悪いことではない
この本を読む前、自分がエフェクチュエーションに惹かれたのは「小さく始める」という考え方だった。
読み終えてみると、それだけではなかった。
5つの原則に共通しているのは、「未来は予測できない」ということをネガティブに捉えていないことだと思う。
未来が予測できない。
だから、完璧な計画を作ってから動こうとしない。
今持っているものから始める。
失敗しても大丈夫な範囲で試す。
想定外の出来事が起きたら、それを利用する。
人に働きかけて、新しい可能性をつくる。
そして、自分がコントロールできる「今」に集中する。
この繰り返しで未来を作っていく。
自分が仕事や私生活でやってきた「まず小さくやってみる」という感覚も、この中に位置づけるとかなり整理された。
特に覚えておきたいのは、
「どこまで小さくすれば、とりあえずやってみることができるか」
という問い。
DXでも、新しい事業でも、DIYでも、何かを始めようとすると、つい完成形から逆算して必要なものを考えてしまう。
すると、必要な予算、人材、時間が大きくなり、始めること自体が難しくなる。
そうではなく、
今、自分は何を持っているのか。
その中で何ができるのか。
失敗しても大丈夫な最初の一歩は何か。
から考える。
そして、一歩進めば、最初には持っていなかった経験や知識、人とのつながりが手に入る。それを使って、また次の一歩を考えればいい。
最初からゴールまでの道筋が見えている必要はない。
むしろ、進んだ先で出会う人や偶然によって、最初に想像していたものとは違う未来にたどり着くこともある。
それこそが、未来が不確実であることの面白さなのかもしれない。
この本は「起業家がどう事業をつくるか」を学ぶ本だと思って読み始めたが、読み終えてみると、仕事でも私生活でも、何か新しいことを始めるときの自分なりの行動原則として使えそうな本だった。











