森 鴎外「うたかたの記」現代語意訳版 038
少女は、「あっ」と叫び気を失い、傾く小舟から巨勢が助ける間もなく湖に堕ちてしまった。
湖水は、ゆるやかな勾配で、次第々々に深くなり、小舟のあたりで1.5メートル程の
深さである。しかし、岸辺の砂は、粘土混じりの泥状態で、王の足は深く沈み、自由に
歩くことはできなかった。
後ろにいた侍医グッデンは、傘を投げ捨て王に追いすがり、王の外套の襟首を摑まえて、
無理やり引き戻どそうとした。しかし、王はこれを振り切ろうとして外套の脱ぎ捨てた。
グッデンはその外套を投げ捨てると、なおも王を引き寄せようとした。
すると王は振り返りとグッデンに組み付き、声もださずに揉み合いになった。