森 鴎外「うたかたの記」 現代語意訳版 027 | 鴎外作品(現代語訳)

森 鴎外「うたかたの記」 現代語意訳版 027

馬車で一時間ほど走り、スタルンベルヒに着いたのは夕方の五時になっていた。歩いていけばゆうに一日はかかる場所であるが、ただアルペンの山なみが近くなったことだけを感じ、天候も良くなかったが、胸元を開けて息をしていた。馬車から見える景色は、丘陵がたちまち開け、ひろびろとした湖水が見えてきた。停車場は湖水の西南にあり、東岸は林で、漁村は夕霧に包まれてうっすら見える程度であったが、山に近い南の方角は一望できた。