森 鴎外「うたかたの記」現代語意訳版 019
それは母でした。
父はあまりのことに、少しの間呆然としたが、「許したまえ、陛下」と叫んで、王を押し倒しました。その瞬間、母は走り避けたが、不意を打たれて倒れた王は、起き上がると父に襲いかかってきました。体も大きく体力もある国王に、父は組み敷かれ、そばにあった如雨露でしたたかに打ち叩かれました。
この事を知って忠告した内閣秘書官チイグレルは、ノイシュワンスタインの塔に投獄されるそうになりましたが、なんとかその難を逃れました。
私はその夜家にいて、両親が帰るのを待っていた。女中が両親が帰ってきたことを伝えにきました。喜んで出迎えると、父は担がれて帰り、母は私を抱きしめて泣きだしました。」