森 鴎外「うたかたの記」 中 現代語意訳版 015
中
少女が店を出て行くと、ほどなく学生たちは散りだした。帰り道、エキステルに少女のことを尋ねてみた。
「彼女は、美術学校でモデルをしている少女の一人で、名前は、フロイライン・ハンスルという。見たとおり奇怪な振る舞いをするから、気がおかしいという者もいる。また他のモデルと違って裸体にならないのは、身体に障害があるからだと噂する者もいる。彼女の経歴を知るものはいない。博学だが性格は常識外れ、しかし穢れたことはしないので、学生たちには人気があり、友人も多い。そして見たとおり美人だ。」
とエキステルは答えた。巨勢は、
「彼女をモデルとして使いたい。アトリエが整ったら来て欲しいと伝えてくれ。」
とエキステルにいうと
「わかった。しかし、もう彼女は十三歳の少女ではない。ローレライの裸体画のモデルとしては使えないぞ。」
と答えた。
「ヌードのモデルはしない、と君もいったではないか。」
「そうはいったが、男とキスをするのを、今日はじめて見た。」
エキステルのこのことばに、巨勢は赤くなった。しかし街灯が暗い「シルレル・モヌメント」のあたりだったので、エキステルはその巨勢の変化には気づいていないだろう。
ホテルの前で二人はわかれた。
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シルレル・モヌメント
シラーの銅像と思われます。
フリードリヒ・フォン・シラー
(Johann Christoph Friedrich von Schiller, 1759年11月10日 - 1805年5月9日)
ドイツの詩人、歴史学者、劇作家、思想家。古くは、シルレルとも表記されていた。
太宰治の小説『走れメロス』のモティーフは、シラー『人質(die Buergschaft)』である。
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