森 鴎外「うたかたの記」現代語意訳版 014
噴きかけられた、霧の中での少女の演説、巨勢には理由が解らなかったが、現代絵画に対する痛烈な批判であることは理解した。そして少女に目を向けた。女神バヴァリアに似た威厳は少しも崩れず、言い終わると、酒に濡れたテーブルの上の手袋を取り、おおまたに歩いて出て行こうとしていた。
皆、顔色を変えて「狂人か」と一人がいえば、「いつか仕返ししてやる」と他の一人がいった。これを聞いた少女は、戸口で振り返った。
「恨まれる覚えはないわ。月明りに透かして見てみなさい、額に血のあとなどないでしょ。吹きかけたのは水なんだから。」