十一月五日 曇、三重町行乞、宿は同前。
昨夜は蒲団長く夜長くだつた、
これからは何よりもカンタン(フトンの隠語)がよい宿で
なければかなはない、
此宿は主婦が酌婦上りらしいので多少、
いやらしいところがないでもないが、悪い方ではない。
山の町の朝はおくれる、九時から二時まで行乞、
去年の行乞よりもお賽銭は少なかつたが、
それでも食べて飲んで寝るだけは十分に戴いた、
袈裟の功徳、
人心の信愛をありがたく感じる。
行乞相はだん/\よくなる、
おちついてきたからだらう、
歩かない日は――行乞しない日は堕落した日である。
此地方ではもう、豆腐も水に入れてある、
草鞋も店頭にぶらさげてある、酒も安い、
何だか親しみを覚える。
豪家らしい家で、御免と慳貪にいふ、
或はちよんびり米を下さる
(与へる方よりも受ける方が恥づかしいほど)、
そして貧しい裏長屋でわざ/\よびとめて、
分不相応の物質を下さる、――何といふ矛盾だらう、
今日も或る大店で嫌々与へられた一銭は受けなかつたが、
通りがゝりにわざ/\
さしだされた茶碗一杯の米はほんたうにありがたく頂戴した。
入浴三銭、酒弐十銭、――これで私は極楽の人となつた。
今日は一句もない、
句の出来ないのは気持の最もいゝ時か
或は反対に気持の最もよくない時かである。
今日は酒屋で福日と大朝とを読ませて貰つた、
新聞も読まないやうになると安楽だけれど、
まだそこまではゆけない、
新聞によつて現代社会相と接触を保つてゐる訳だ。
今日はまた湯屋で、ほんたうの一番風呂だつた、
湯加減もよかつたので、たつたひとり、
のび/\と手足を伸ばした気持は何ともいへなかつた、
殊にそこの噴井の水はうまかつた、
腹いつぱい飲んだことである。
アルコールのおかげで、ぐつすり寝た、
お天気もよいらしい、いゝ気分である、
人生の最大幸福はよき食慾とよき睡眠だ。
いつ頃からか、また小さい蜘蛛が網代笠に巣喰うてゐる、
何と可愛い生き物だらう、
行乞の時、ぶらさがつたりまひあがつたりする、
何かおいしいものをやりたいが、さて何をやつたものだらう。
(青空文庫作成ファイル)より
(続きます)
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今日も命を授けていただきありがとう (^-^)
二度とない人生
だから 今日が大事、今日が大切
今日もいい日でありますように 【合掌】
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