反グローバリズム、金融独立・経済自立・累積債務の解決のために―― | 王道日本:佐野雄二

反グローバリズム、金融独立・経済自立・累積債務の解決のために――


≪為替制度を「半固定・半変動相場性」とする≫
                                            文責 佐 野 雄 二 
現在の世界で主流の外国為替制度は変動相場制である。この制度は1973年、それまでの固定相場制の欠点を補うものとして導入された。


ドル・円・ユーロと、多くの国が採用している変動相場制の為替システムは、輸出が増えて貿易黒字がたまれば、やがてその国の通貨高となり、価格面で国際競争力が劣って輸出は減る。一方、輸入価格は下がって輸入が増えるから、結果として国際収支は均衡に向かうことになる。


 逆に累積債務国の場合、貿易赤字がたまれば、その国の通貨安になり、輸入が減って輸出は増える。これによって貿易赤字は縮小し、この場合も国際収支が均衡に向かうというものであった。


この理論に従えば、為替市場の動きを放任することが貿易赤字や貿易黒字解消の最善策である。途上国が累積債務に悩んだり、先進国に貿易黒字が溜まり過ぎるなどの現象は、一時的なタイムラグで生ずるものに過ぎず、各国とも外貨準備は原則不要というものであった。


確かにそれ以前の固定相場制に比べれば、通貨の需給が均衡しないからといって、毎回、通貨当局が余剰分の通貨を買い取らねばならないということはない。その点では変動相場制は固定相場制より優れているが、為替が絶えず変動することを利用して投機の対象となっていること、変動相場制移行後も途上国では対外債務が累積し、その返済に苦慮していること、一方では日本の貿易黒字は毎年継続し、2007年末で外貨準備高が9700億ドル(約110兆円)にも及んでいることを知ると、変動相場制が通貨当局の市場介入を必要とせず、貿易黒字も赤字も累積しないという見通しは誤りであったといえよう。


もちろん、外貨準備は中央銀行の外国為替市場での介入によって蓄積される。介入しなければ貿易黒字で円高ドル安となり、それを放置することもできるのだが、現実には円高での輸出減少を嫌う日本の財界と、ドル安を嫌うアメリカの利害が一致し、日銀は貿易黒字以上に、米国債を買い続けてきたというのが実情である。


国際貿易では一国が大幅な黒字であれば、その同額分の赤字が他の国に必ず存在する。それが一方では日本のような貿易黒字のたまり過ぎ(これは事実上の失業の輸出!)であり、他方では累積債務国の存在である。ゆえに真に一国のみで収支が自動均衡する為替システムが求められている。



変動相場性は全てに失格のシステム



一般に、国家間の貿易の為替システムに求められる条件は次の通りである。


① 互いの通貨の交換レートが安定すること。


② 国内金融・財政政策の独立性が守られること。


③ 国際収支が自動均衡し、対外債務や外貨準備が蓄積しないこと。


――わずかに3つの条件であるが、多くの国が採用している変動相場制は、これらの条件のいずれの点でも失格となっている。


まず第1の為替レートの安定は、輸出入品のコストや利益を計算する上で絶対必要条件である。絶えず為替の変動に一喜一憂するというのでは安心して取引を拡大できないが、現状の変動相場制は為替レートが絶えず変動することを特色とするから、外為システムに必要な第一の条件に全く反している。

為替リスクを回避するために数々の金融商品が開発されているが、それらに対応できるのは一部大企業に限られる。


 デリバティブなど、絶えず変動する為替レートの利鞘を狙った投機資金も膨らんでおり、変動相場制は、実物取引を前提とした為替制度の理想像からは大きく外れた制度であるといえよう。


ちなみに変動相場制の欠点を補うため考案された「目標相場制」は、為替変動幅を一定範囲内に収めるというもので、EUなどはこれを指向した。だが、かえって通貨当局による介入範囲を教えることになり、92年にイギリスが投機筋に狙いうちされ、ポンド危機に陥った。ロシアが98年8月に通貨危機に陥ったのも、目標相場制の破綻であった。


第2に、変動相場制下においては金融政策は有効であるが、財政政策は効果の減少することが指摘されている。これは、開放経済体制の場合、その国の金利が世界平均を上回れば外国資本がその国の通貨を買う。変動相場制においては外国資本の流入は国内のマネーサプライの増加をもたらさず、通貨高をもたらすのみである。この通貨高により純輸出(総輸出ー総輸入)が減少し、景気は悪化し、金利は低下する。金利は世界平均に一致するまで低下し、景気は悪化し続け、財政支出の効果を減殺する。


逆に金利を世界平均より下げれば、外国資本はその国の通貨を売る。これはその国の通貨安をもたらし、純輸出が増えて景気は上昇する。財政支出がなくとも有効な景気対策となる。


この動きでわかることは、変動相場制下にあっては財政政策のみならず、金融政策の独立性も保てないということである。絶えず世界平均金利と比較して国内金利を決定しなければならないというのでは、真の独立国とは言えない。つまり変動相場制は財政政策においても金融政策においても、自国民の経済状態に即応した政策を打ち出しにくい、国の独立性を保てないシステムであるという重要な欠陥をもつ。


第3に貿易収支が自動均衡することも外為システムの重要な要件である。この点においても変動相場制は失格である。

前述したとおり、変動相場制下で日本は貿易黒字がたまり続ける一方、数多くの途上国は累積債務に悩まされている。これらはいずれも変動相場制の収支自動調整機能がキチンと働いていない証拠である。

単純な企業活動であれば経常収支が黒字であるのは良いことである。どこかの企業が大幅に黒字だとして、それは効率化のおかげや販売戦略の良さとして賞賛され、同業他社も皆、黒字ということはあるのだが、こと貿易ではこれは不可能である。 


経常収支が黒字の国があれば、それと同額の赤字が、必ず他国に存在する。ゆえに1国のみで真に収支が自動均衡する為替システムが求められているのである。

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半固定・半変動相場制の概要



以上の問題意識から、変動相場制には致命的欠陥があると考え、「半固定・半変動相場制」と名づけた新外国為替システムの導入を提唱する。


半固定・半変動の外為システムとは、日本でいえば外為決済における円売りと円買いの交換レートを切り放し、一方を固定、もう一方を変動制とするものである。


外国為替取引の卸売り市場である銀行間(インターバンク)市場において、通貨当局は固定制(例として円売り・ドル買いレート)とした通貨の交換には無制限に固定レートで応ずるが、一方の変動制(例として円買い・ドル売りレート)とした通貨交換の要求には、同じ締めに固定レートで拠出された金額を全て当て、それ以外の放出も繰り越しも一切しないシステムである。


これにより、真に一国のみで国際収支が自動調節され、採用国は貿易赤字も貿易黒字も生ずることはないから、累積債務問題は一気に解決する。


⑴ 例をあげて説明すると、輸入代金支払いなどのためのドル買いレートを1ドル120円の固定制とし、一方、輸出代金回収によるドル売りレートについては、同じ締めのインターバンク市場に放出されたドル買いのための円貨を、すべて交付する。


⑵ 図を見ていただくと分かりやすい。今、輸入業者A、Bが輸入代金支払い用の計1億ドルを取得するため、インターバンク市場に円資金を提供(銀行の在庫は考えない)したとしよう。こちらは固定レートであるから、1億ドルの調達のために計120億円を提供する。つまり、1ドル120円の固定レートで円を売ってドルを買う。

⑶ 一方、同じ締めに輸出業者C、Dが、輸出代金回収によるドル資金計8千万ドルを円に代えようとする。C、Dからのドル売りに対して通貨当局は一切介入せず、同じ締めにドル買いのために拠出された円貨120億円がすべて提供(為替手数料は無視する)されるので、このケースでは変動のドル売りレートは1ドル150円となる。


⑷ これでは変動レートが固定レートに対して円安(ドル高)であり、インターバンク市場の参加者である生損保や為替取引業者などの機関投資家は、ドルを売って円を購入しようとする。


例として機関投資家が円買いのために、同じ締めに1千万ドルを投入すると、今度は、先の輸出業者の8千万ドルと合わせて9千万ドルが市場に提供されたことになる。


これに対して通貨当局は一切、市場介入しないから、先に輸入業者A、Bからドル買いのために拠出された円貨120億円がすべて交付される。このケースでは変動レートであるドル売りレートは1ドル133.33円となり、まだ円安ドル高であるから、さらに円が買われることになる。この動きは1ドル120円に限りなく近づくまで続くことになる。


⑸ 一方、変動レートが自国通貨高となるケースを考えると、上記⑵の事例で輸入業者のドル買い計1億ドルは変わらず、輸出業者C・Dが計1.2億ドルのドル売り・円買いに入ったとしよう。この場合も同じ締めに提供された円貨120億円だけが交付されるから、変動レートたるドル売りレートは1ドル100円となる。これでは円高ドル安であるから、機関投資家は円を売ってドルを買う。この動きは1ドル120円になるまで続くことになる。


⑹ 結論として変動レートとされたドル売りレートは、固定レートとされたドル買いレートの金額に限りなく近づくことになる。貿易黒字も貿易赤字も機関投資家の動きによって、その日の「締め」ごとに補正されるから、半固定・半変動制の外為システムによれば、一国内のインターバンク市場において完全に収支自動均衡するのである。


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半固定・半変動相場制の効果



さて、この半固定・半変動制の外為システムの効果は多方面に及ぶ。それを列挙すると、


自国通貨の交換レートが安定するため、輸出入品のコストや利益を安心して見積ることができる。絶えず為替差損益を気にしていた変動相場制との、この違いは大きい。特に途上国や政情不安国との取引でも、原則として為替の変動を気にせず貿易ができるという利点を持つ。


このシステムでは国際収支が自動的に均衡するので、国際債務の不履行問題も貿易黒字のたまり過ぎも起きなくなる。このため外貨準備はごくわずかで済むし、通貨価値が暴落してハイパーインフレに見舞われるということもなくなる。


変動相場制下では一国の財政政策、金融政策の独立性は守られなかった。半固定・半変動制にすれば、国際協調という名の国外圧力から開放され、真に自国民の安寧を考えた財政・金融政策をとることができる。


デリバティブや為替投機は消滅する


変動相場制下では、デリバティブ取引や為替変動を利用した投機資金が横行した。為替投機は誰かが得をすれば、反対側に同じだけの損失をこうむる者が必ず出る。いわば、一国の通貨を対象としたマネーゲームで、有益なものを何ひとつ生み出さない。


外為システムはあくまで参加国の物やサービスの取引のために安心して利用されるべきで、一国の通貨がマネーゲームの対象になるような制度は廃すべきと考える。この新システムでは日々の為替変動は起きないから、デリバティブ取引や為替投機などは消滅する。結果として、1997年に起こったアジアの通貨危機など、ハゲタカ・ファンドに国の金融や経済がメチャクチャにされることがなくなる。


彼らはアジアの資本主義を「クローニー・キャピタリズム」と難癖をつけ、その国の通貨を売り浴びせると、当然に株価は暴落した。その暴落した株価のうち、優良会社の株式だけを彼らは再び買いあさって支配下におさめた。変動相場性下では、為替変動さえも、株式投資の利ざや稼ぎや企業乗っ取りに悪用されるのである。


事実上の金融鎖国、経済の自立



また、この半固定性の為替システムでは、外国資本が証券投資や金融収益のみの目的で資金移動することが、事実上、シャットアウトされる。


何故なら、ドル買いにしろ、ドル売りにしろ、実物経済を伴わない多額の為替決済をすれば、必ず、他の機関投資家の利益となる。外資がそこでも稼ごうとすれば、自らドルを売りながら、同時に同額のドルを買わなければならない。そんなことをする気にはならないから、事実上の金融鎖国となって、為替決済は、本来の目的である実物取引の決済に収束されていく。


また、最近の経済はグローバル化している。これは、良いにつけ悪いにつけ、世界経済の一体化をもたらす。アメリカがサブプライム焦げ付きでドン底の景気に陥り、ドル安が急速に進めば、日本の景気も悪影響を受ける。


そこで景気回復を印象づけるためドル増刷をすれば、世界的なインフレとなって資源価格が高騰する。同時に、金余りの投機資金が増え、各国の通貨を渡り歩いて各地でバブル経済を現出する。バブルはいずれ弾けるから、結果、各地の実物経済をメチャクチャにする。半固定の為替システムは、こうした世界経済の悪しき連動を食い止める効果を持つ。つまり、1国だけで経済が自立するのである。


売る物がない途上国でも貿易赤字は生じない



貿易自由化を進めても途上国には外国に売るものがない。かえって国家間の格差が拡大し、一日1ドル以下で暮らす極貧の貧困層が世界的に増えているという問題がある。これは明らかにグローバリズムの弊害であるが、半固定制のシステムでは、売るものがほとんどない途上国でも国際収支は自動均衡する。ゆえに国家間の格差拡大を防止ないしは縮小する。


なぜなら,半固定制は、外国に売るものが一つでもあれば、その対価であるドル売りを変動レートとして、ドル買いのために提供された自国通貨をすべて交付する。


これは先の事例⑶で、輸出代金回収のドル売り8千万ドルをもっと下げて、1千万ドルのドル売りがあったと仮定すればわかりやすい。この場合、ドル売りレートは1ドル1200円になる。


著しい円安は機関投資家にとって巨大な利益であるから、同じ締めで手持ちのドルを売って自国通貨の買いに動く。買わない場合は1ドル1200円で円が売られ、いずれにしろ国際収支は自動均衡する。この価格では輸出振興に力が入るから、途上国は貿易赤字の累積に悩むことはなく、国家間の格差を縮小することができるのである。


貿易黒字は失業の輸出



日本について言えば、変動相場制下における貿易黒字のたまり過ぎは、国内的には好景気の継続と雇用の確保で自国民には好都合であろうが、他国から見れば「失業の輸出」である。エネルギー使用やCO₂抑制の点から、農産物について「地産地消」が言われているが、工業製品についても、現地の雇用確保に役立つ地産地消が理想であり、半固定性の為替システムは、これを推進する。


食糧自給率や関税設定も任意


現在,日本の食糧自給率は先進国の中でも異常に低い。これは「貿易自由化」を推進するWТOやアメリカの圧力が大きいために農産物の自由化・低関税化を受け入れてきた結果である。


そして、この背景には、日本の貿易黒字のたまり過ぎがある。つまり、日本は自由貿易の恩恵を最も受けているのだから、見返りに農産物の自由化をせよという次第である。


おかげで外国で軒並み農業不況が続けば、食糧備蓄の尽きた後は餓死する国民が続出するというひ弱な国が出来上がっている。


だが、この新システムを導入すれば貿易黒字のたまり過ぎはなくなるから余計な外圧を防ぐことができ、食料自給率向上など、真に自国民の安寧を考えた交易活動が可能となる。


ちなみに、この半固定性の為替システムを導入すれば、交渉次第で関税の設定は任意となる。輸入決済のドル買いレート@120円に、同額の輸入関税を課せば、事実上、@240円での輸入となるが、これが国内産業の保護となって、景気活性化につながるだけでなく、財界の要望する法人税減額も容易となる。


関税額によっては年金財源も赤字国債の償還も可能となるから、1石3丁にも4丁にもなり、是非、導入したい制度である。


輸入代金決済用のドル買いレートを固定制に



 右の新システムの導入については、いくつかの決定すべき前提がある。


⑴ 先ず、ドル買い・ドル売りのどちらを固定レートとするかであるが、どちらを選択しても、一方の変動レートは固定レートとされた金額に限りなく近づくから、国際収支均衡という面ではほぼ同じ効果を持つ。


だが、国際債務の返済に悩む国は、ドル買いレートを固定制とする方が、返済の資金計画が立ちやすいのでお勧めである。


また、対外決済通貨を円や他の通貨ではなく、ドル建てに一元化すれば、アメリカとの関係を良好に保つことが出来る。

さらに、たとえば日本のような国の場合、資源の輸入がなければ国民生活は成り立たないから、これを安定的に確保する施策が重要視されるべきである。つまり輸入代金支払い用のドル買いレートを固定レートとして安定化させ、一方のドル売りレートは変動制とするのがより良い選択となる。


⑵ 次に固定レートをいくらにするかの問題がある。


これも収支均衡だけを考えれば如何様にも可能だが、自国民の生活の安寧を考えて、自国の消費者物価(購買力平価)を基準にして設定されるのが妥当である。


日本の購買力平価は米1ドルに対して135円ほどの水準(2004年のデータ)であり、これを基準として、産業振興のため輸出を増やしたい時は円安(たとえば1ドル150円)に固定レートを変更し、輸入コストの上昇を抑えたい時には円高(1ドル100円など)に固定レートを変えれば、政策の幅も広がってくる。


なお、このシステムはドルに対してだけでなく、ユーロなど既に国際決済通貨と認知された通貨に対しても、市場で売買が成立すれば、並行して採用することが可能である。
 
⑶ この新システムを成立させるには、締めごとのドル買い・ドル売りの集計対比を必要とする。この点で変動相場制と異なるが、特に難しい制度ではない。証券取引所などを参考にインターバンク市場を開設すれよい。


 また、世界の為替制度は固定相場制、ペッグ制(自国通貨と米ドルなど特定通貨との為替レートを一定に保つ制度)、変動相場性と3分され、それがさらに多様化している。ゆえにどの制度を採用するかは、自国だけで選択が可能である。


累積債務として膨らみやすい政府借り入れは別枠で 


途上国の政府が他国から借り入れている多額の債務について、免除すべしという意見があるが、このシステム下においては政府借入は別枠とした方がよい。 借入時の為替決済が一時的に巨額となるためである。


ただし債務の分割返済については、金額が分散されるため、この制度内で処理することは不可能ではない。


特に途上国の例を見ると、ドル建ての借入時に1ドル24バーツ(タイの例)であったものが返済時には1ドル50バーツと、自国通貨が大幅安となった場合、返済額は2倍以上になる。これでは返済不能になるが、半固定・半変動の為替システムではこの事態は回避できる。


つまり対外借り入れの別枠扱いをしても、他の貿易収支はすべて自動均衡するから、途上国の経済自立には、是非、必要な為替システムだと言える。


 ちなみに、この新システムによっても政府借入れの扱いが別枠ということは、金融は、自国内で完全自給できるのがベストだという結論になる。


戦後の日本の経済成長も、金融を自国内で自給できたことが大きかった。その経験を参考として、この為替制度を導入して経済の独立性を確保しながら、自国の金融システムを育成することが、途上国の健全な発展につながるものと考える。