父が生み出すブラックホール

 

 

ズボンからパンツが見えてしまうと、人は焦る。

だが、この世には下げパンという概念があり、見せパンという概念もある。

パンツへの思いは人それぞれだ。

 

最近このようなくだらない思考が脳をよぎる。

 

原因は明らかだ。

先日父が帰宅した際、

「穴アイチャッタヨ~!!」

と言いながら、履いていたズボンの背面を見せてきたことから始まる。

 

ブラックホールのごとくズボンの尻部分は破けており、

もはや事件性を感じるほどだった。

 

「自転車ノセイト思ッタケド、何モナカッタ。。

 マァ、古カラ・・」

 

と、ありえない裂け方をしているのに父は、“ズボンが古い”で片づけた。

絶対古いせいじゃない。と思いながらも、あくまで他人事なので、

私も「そっか~」と片付けた。

 

夢かと思ったが、その翌日、

「穴アイチャッタヨ~!!」

と言いながら、父が昨日とは別のズボンの背面を見せてきた。

 

それもまた、昨日と同様に、目を疑うほどに裂けていた。

流石に“古い”では片づけられないだろと思ったが、

驚くことに父は、「コレモ、古イカラ」と言っていた。

 

ナイフで下から上に思いっきり裂いたかと思うほどに破けているにもかかわらず、

“古い”で片づける父の姿を見て、理解ができず、恐ろしかった。

そのため、その日もまた、私は「そっか~」と片づけた。

 

 

 

 

ここまで登場してこなかったが、うちには母がいる。

「2日連続なのに、よく古いで片づけられるね?!?!あんた履くものなくなるよ?!!」と母は注意していた。控えめに言って正しかった。

 

だが、父は「本当二古インダヨ!!」

と言い返していた。もはやどれだけ古いのかが気になってきた。

 

しかし、その翌日、翌々日にはズボンが破けることはなく、

“古かった“という父の無謀な考えに私は賛同し始めていた。

 

そんなある日、普段、なんか話ないの~?と聞いても

「ない」としか言わない母が突然口を開いた。

 

「なんかね、また、ズボン破けたんだって。1週間前にも2回破けてるからさ、

さすがに自転車を疑ってくれるかなって思ったの。でもね、また“古いから”って言われちゃって。もう気持ちがわからない。」

 

夫婦のすれ違いはいつどんな場面で起きるかわからない、

そう思う今日この頃であった。