no/not 比較級 thanについて | 散歩

no/not 比較級 thanについて

桐原書店のOverviewやForestには、He is not taller than I am.のようなHe≦Iを意味するnot 比較級 thanを用いた文か覚えるべき例文として記載されています。私は以前、「英語青年」(研究社)に載った論文で、「not 比較級 thanは存在しない」と書かれていたのがずっと頭にあり、Overviewで先程述べたような例文を見たときに強い違和感を覚え、ちょうどよい機会なので、no 比較級 thanとnot 比較級 thanについてどう教えるべきかはっきりさせるべきだと考えいろいろ調べてみました。
そこでまず、Cobuild English Usageのnoの項目を見るとまさにこの件に触れており、次の記載があります。
No" is used in front of comparative adjectives instead of “not".For example, instead of saying “She isn't taller than her sister",you say “She is no taller than her sister".
notは用いずに代わりにno を用いるとはっきり書かれています。また「日本人の英文法」(ミントン)には、not 比較級 thanの形式が使えるのは「誰かが言ったことに反論する場合、あるいふ質問に答える場合だけ」であるとし、次の例文が載っています。
A:I'm taller than you.
B:No, you're not taller than me.
以上のことから、特殊な文脈が与えられない限りnot 比較級 thanの形式は通常は用いられず、notの代わりにnoを用いて≦を意味するということになります。
それでは、not 比較級 thanの類似表現であるno/not more than+数値表現の場合はどうなのでしょうか?これまで学校や予備校などでは、no more thanはonlyを意味しnot more thanは≦(多くてせいぜい)を意味すると教えられてきましたが、本当にそうなのでしょうか?
ここに興味深い記述があります。
「noとnotをちゃんと使い分けられるネイティブスピーカーにはお目にかかったことがありません。」「notを使わずにnoで済ましてしまっている人が多く、実際の会話などで、その区別をしようとしても無駄です」(「ネイティブ感覚の英文法」(ジャン・マケーレブ)より)。
確かに、早稲田などの自由英作文の設問には、Write an essay of no more than 100 words.のように書かれています。この文の意味は明らかに「100語以内のエッセイを書きなさい」であり、ここで用いられているno more thanの意味はonlyではなく≦であることが明白です。また、よく用いられるno later than X(遅くてもXまでに)でもno later thanは明らかに≦を意味しています。先ほど紹介した「日本人の英文法」でも、「no more thanは意味的にはat the mostに近い表現で、上の例文はすべてat the mostで言い換えることができます。no more thanもat the mostも提示された数量が考えうる最大の数量であり、それより低い可能性もある、ということを示しています」
また、最も新しい包括的な英文法書「アルファ英文法」(研究社)にはnot more thanについては一切記載がなくno more thanだけが挙げられています。高校生向け学習参考書はどうかと言うと、私が知る限り唯一「ブレイクスルー総合英語」(美誠社)のみが、従来通りの説明をした後のコラム的なページで「英文校閲を行っているQuackenbush先生は、no less thanはat leastの意味だと言われる。少なくともアメリカ英語ではそのような意味で使われているのかもしれない。次回の改訂までにはもう少しきちんと説明をできるようにしておかないと。」と極めて率直かつ誠実に述べています。また最近出版されたばかりの「英語研究と英語教育」(大修館)には、Reservation must be made no less than 4 days and no more than 240 days in advance.(予約は遅くても宿泊の240日前から4日前の間にしなければならない)という例文を引いて「no less thanとno more thanに、それぞれat leastとat mostの意味がある」と述べています。
以上のことから考えてnot more thanという形式は、少なくとも現代英語では使用頻度が低く、代わりにno more thanを用いて≦を意味すると言えそうです。
では、このno more thanは≦だけを意味し、onlyの意味で用いられることはないのでしょうか?
この疑問には「程度表現と比較構造」(大修館) の次の記述が参考になります。
「no more thanの後に切りのいい数値が来たらその数値が最大値であり≦を意味し、切りのよくない数値が来た場合は、onlyを意味する」
【結論】
1 not 比較級 thanの形式は余り用いられない特殊な表現であり生徒に教えるべきではない。
2 ≦に意味ではnot 比較級 thanではなくno 比較級 thanを教えるべきである。
3 数量表現であるnot/no more thanに関しても、もはやnot more thanは生徒に教えるべきではなく、no more thanのみを≦とonlyの二つの意味を持っ表現とし、thanの後の数値が切りがいいかよくないかでその二つの意味を区別できるように指導すべきである。

以上、長々と失礼しました。ご意見がありましたら頂戴できるとうれしいです。
菊地潔