私が先を駆ける留三郎を引きとめたのは、太陽が低い空を橙色に染めて山を影らせ、高い空が鮮やかな藍色に染まり始めていた時だった。
留三郎はどうした?と私を振り返る。
任務の帰り、日が暮れる前に学園に戻ろうと急ぎ長いこと走り続けていたため、私も彼も息が上がっていた。

「空が、綺麗で」

「あー」

空を見上げた留三郎は口元を覆う頭巾を下げる。先程まで任務で殺気立った鋭い視線で周囲を睨んでいた瞳、それがまるで嘘だったかのようにいつもみたいに目を細めて私に微笑んでくれた。

「お前らしいな」

忍が夕日を見て綺麗だと足を止めるか?と私をからかいながら、頬に皺を作って笑ってくれた。

いつもの優しい留三郎。私の親友。
私は君の笑顔が大好きなんだ。

そんなことはこっ恥ずかしくてとても言えないが、私はそんな言葉の代わりに笑顔を見せた。




橙色の太陽のもと、君といる時間が限りなく永遠に感じた。昔も今もこれから先も、君と笑っていられる何も変わらない日々が続くのだと疑いなく信じてしまうほど。

それでも時はそんな私たちを無視して刻々と単調に過ぎてゆく。君と過ごす時間は刻々と短くなってゆく。
薄情にも、私を、君を、闇がゆっくりと飲み込みながら…。

それに気付かないほど、私も君ももう幼くはなかったのだ。

「留三郎」

そして闇のなかで君を見失わないようにと、私は君の名前を呼ぶのだ。

太陽が赤く照らした君の姿。
その腕がぎゅっと私を包んでくれて、とてもあたたかった。留三郎は太陽の匂いがした。

「何泣きそうになってんだよ」
「そんなこと、ない」

唐突にそう言われて心臓が跳ね、思わず声が裏返った。が、そんな留三郎の声だってなんだか震えていたように感じた。

「留三郎」

昔から、出会った時からそうだった。
私のそばにはいつも君がいて、私が崩れそうになる時は必ず優しく抱きしめてくれた。私には君が必要で。

「ずっと…いっしょに居れたらいいのにね」

だからこれから先もそう願ってしまうのは当然のことなのではないか、と私は思うのであった。



「アホ伊作」
「…失礼だぞ」



もうすぐ、春。
桜が咲く。









* thank u 4 reading!!:)







- p r o l o g u e -




いつからか…、
何かが胸につかえていた。
何かが足りないような気がしていた。
それが何がだなんて分からないけど…。
何か“大切なもの”を失っているような気がしていた。

そして誰かが言っている。



「忘れないで」って…。








- 0 1 .




「うわあっ!」


下校時下駄箱に向かう途中に聞こえてきた情けない感嘆詞。
振り向くとそこには見覚えのある姿…確かあれは同じクラスの…。

「おい大丈夫か善法寺?」

こんな何も障害がない廊下でここまで盛大に転ぶことが出来るものなのかと不思議に思いながら、俺は声をかけてみる。

「あ、食満君…!うわー見られちゃったね」

俺の声に顔を上げると、バツの悪そうに目を細めて苦笑する善法寺。

「随分派手に転けたな…」

彼は苦笑しながら色素の薄い髪を掻く。
俺は同じクラスメートのよしみとして彼がばら撒いたプリント用紙を拾うのを手伝ってやることにした。

「ご、ごめんね」
「いや、いいよ」

拾いながらプリントに軽く目を通すとそこには保健通信の文字。

「そっか、善法寺は保健委員だったよな」
「ああ、そうだよ」
「こりゃまた遅くまでご苦労さん」
「ははは。僕の要領が悪いだけだよ」

ああ、そうなんだろうな…なんて頭のなかで納得してしまった自分がいる事はここだけの話だ。
こいつの事は正直あまり知らないが、なんとなく抜けてる奴だって事は感じてた。まあ所謂天然ってやつか?

「ほら」

プリントを二人で拾い終えると俺は今だに尻もちついたままの善法寺に手を伸ばした。
当然彼はその手を取り立ち上がる。

「ありがとう」

そしてごく自然に笑顔を見せた。



「え?」



善法寺がぐっと手を握った感覚、その笑顔に、何故だか俺の心臓は跳ねた。

なんなんだ、これは?

以前も、というかずっと昔に同じようなことがあったような…不思議な感覚に陥って思考が止まって、思わず彼の顔を食い入るように見つめてしまう。
そして自然と言葉が…

「…なあ。俺たちって…」

「…な、何?」
「あ、いや…」

しかし善法寺の戸惑い気味な声にはっと我に帰り、俺は言葉を飲み込み彼から視線を外す。

「いや、なんでもない」

そして今度は善法寺が不思議そうな顔でじっと俺を見ていた。

「っじゃ、またな!」

俺はその視線に耐えかねて持っていたプリントを彼に押し付けるように手渡すと、踵を返して足早にその場を後にする。

「あ、うん。じゃあまた明日…!」

善法寺はそんな俺の背中に向かって声をかけた。




そんなはずはない…。
しかしなんだったのだろうか?
これはデジャブというやつなのだろうか?
でもそれとは違う、どこか懐かしいっていうか…。

だけど俺と善法寺は高校に入学してから出会ったはずなんだし、今も特に仲が良い訳でもない。すれ違い際に挨拶する程度だ。だから懐かしいだなんて感覚はあり得ない訳で…。

俺たちってどこかで会ったことあるか?だなんて馬鹿げた質問。

「聞ける訳ねぇよな」

脳裏にチラつく善法寺の顔を掻き消すかのように俺は自分に言い聞かせ、木枯らしに冷えた手をポケットに突っ込み家路を急いだ。



「寒っ…」








それでも誰かが囁いてる気がした。


「思い出して」って…。





to be continued...