透き通った石 | おはなしてーこのお話

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ふっと生まれたお話や感じたことを書いてます。

村の奥にある森の一番奥に


その石はあった。


濃い緑色をしたコケとシダを敷くようにして


祠のように石や岩に囲まれて


その石はあった。


とても透き通った石がそこにあった。



その石を見にわざわざやってきたひとりの女性。


いつもは、普通に村で暮らしていた。


何不自由もない、平凡で幸せな毎日を暮らしていた。



なのになぜか何かを忘れている気がした。


忘れいることを思い出す時が来た気がした。


なぜそう思うのか、その女性にもわからなかった。



いつもと変わらないエプロンを付け


頭には、布の帽子をかぶったまま


足は、なぜかここの石に向かっていた。



どうして、ここに行こうとしてるのか


ここに向かいながら分からないでいた。


でも、行かなくては・・・


そんな想いがずっと心の中で響いていた。



そして、その石のある場所についたとき


その女性は、ホッとしていた。


その石の姿を見ただけでホッとしていた。



そこで、一息つき


ここからどうすればいいだろうと思った。


また、なぜここに来たのかわからないと思った。



そう思ったとき


足は、その石に近づくように前に出ていた。


一歩ずつその石に近づき


その石の前に立ったとき


ハッとした。



この石のことを思い出した。



女性は、今の平凡で幸せな日常と引き換えに


この石に力を封印してきた。


彼女が、その力を取り戻すとき


今の日常は消え去る。


この村で今までのようには暮らせない。


普通の女性としての穏やかな日々


その毎日を失う。


女性は

穏やかな日々を望み以前の生活を捨てた

記憶もなくし、

ずっとこんな穏やかな生活をして過ごしてきていたように思って生活していた。

以前の記憶をその力とともに

この石に封印した。


今の生活を幸せだと思っていた女性


・・・なのに

なぜここに来てしまったのか

女性自身もわからなかった。


ただ、じっとその石を前に

その石を見ていた。


じっと・・・ただ、じっと・・・


そして・・・


その石が、ある瞬間

パンっと割れた。

粉々に割れた瞬間


女性は体が軽くなり

風に巻き込まれるような感じた。

その風のような感触を感じたとき


女性は「あ~あ~」と仕方ないあきらめのような

わかっていたことが起こったような

そんな言葉をつぶやいていた。


感じていた風も収まり

肌に草の感触を感じたとき

「戻ったんだ・・・」と思った。


そして、草だらけの何もない広場に横たわっていることに気がついた。


女性は、ゆっくりと体を起こし

懐かしいその風景を見ていた。


石に封印をかける前にいた世界に戻っていた。


そして、石に封印をかける術を教えてくれた人の家に向かった。


そして、大きな老木の根に住む

その人に声をかけた。


その根の小さな空洞から声をかける。


少しすると返事が返ってきた。

「やっぱり帰ってきたのか」

呆れたような、冷たい声が返ってきた。


「・・・で、どうするんだ?」とその人は聞いた。


「・・・」女性は答えられなかった。


「もう一度、あの村に帰るか?」

その人がまた聞く


「・・・」また、女性は答えられないでいた


「何度でもあの村と同じようなところに行けばいい

 そして、またこうして戻ってくるんだ

 あんたはいつもここにもどる。

 何度でも」


その言葉を聞いた女性は

何も言わずにそこから離れた。


女性はここが自分の居場所とは思えなかった。