兄嫁 | おはなしてーこのお話

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ふっと生まれたお話や感じたことを書いてます。

「さあっ、死になさい!!」


そう言って、少し神経質そうな女性が

足元にうつぶせになっている女性の手元にナイフを投げた。


「さあっ、早く!!!

 あなたがいると迷惑なのよ!!」


その神経質そうな女性は、前のも増して苛立っていった。


その女性は、うつ伏している女性の夫の兄嫁

大きな家柄の二人の息子のところにそれぞれ嫁いだ。


その兄嫁になる女性も弟が嫁をもらうまでは、

普通に暮らしていた。

厳格な家に育ち、国の役職に就く父の決めるまま

家の釣り合いが取れるからと言われ嫁いだ。


彼女は、父や母の言いつけを守り

自分自身を律して、両親の希望にこたえることだけを

自分の人生そのものだと思っていた。


そして、嫁いでからは、

実家の両親が恥ずかしくないようにと

夫の家の秩序を守り、

夫の両親に仕えるように生活していた。


数年たった時、夫の弟に縁談話が持ち上がった。

その時の相手が、今、彼女が憎み殺そうとまで思った女性。


その弟嫁は、愛らしかった。

そこにいるだけで、柔らかい光が差すような女性だった。

何をしても、許される。そんな女性だった。


兄嫁は懸命に、失敗しないようにと嫁を務めていた。

弟嫁は、おっとりとした性格で

兄嫁の彼女から見ると嫁としては劣っていると思っていた。


それでも、弟嫁の彼女には、誰も何も言わない。

それよりも、皆からの評判がいい。

使用人も両親も夫さえも、彼女のことを悪く言う者はいない。


そんな姿を見るたびに、兄嫁の彼女は、対抗心を燃やした。


あるとき、弟嫁が妊娠し、

初孫でもあるので、前にもまして、

皆が彼女に優しくなった。


兄嫁には、子供が出来なかった。

以前、妊娠したのかもと思い皆が期待したが、

間違いだったことが分かり、

その時の兄嫁は、とても居心地の悪い嫌な思いをした経験があった。


そのことがあったので、余計に弟嫁が憎くなってしまった。


それから、弟嫁が男子を産み次に女児を産んで数年たっていた。


ある時、兄嫁は、使用の二人が、

彼女たち二人の嫁の話をしていた。


「弟嫁様は、優しくて明るい方で、

 こちらまで気持ちが明るくなるわよね~」

一人の使用人がそういうと

もう一人の使用人が、

「そうそう、とてもかわいらしい、いい方。

 うちの娘になってほしいくらいよ~」と言った。


その返答に「ホントホント」と言って答え

「でも、兄嫁さんはねぇ・・・

 なんだか、そばにいると息がつまりそうなのよね。

 気位が高い感じして、近寄りがたいわー」と言うと

それを聞いて「わかる。わかる。」と答えるもう一人の使用人。


その話をずっと聞いてしまった兄嫁。

馬鹿にされているように感じた。

そこにいることが、恥ずかしく感じた。


そして、そのことをずっと心にとどめて

いろいろと考えていた。


自分が弟嫁のようにはできない。

それは、彼女のプライドが許さなかった。


でも、このままでは、自分の居場所がなくなる

この家まで乗っ取られてしまうと思った。


そして、思い詰めた兄嫁は、

弟嫁を観劇に誘い、夕食を済ませ

その帰り道に、海まで誘い出した。


初めて、兄嫁に誘われ、以前から仲良くしたいと思っていたから

嬉しくもあったので、弟嫁は何も疑わず兄嫁についてきた。


そして、少しの間海風に当たっていた。

安心しきっていた弟嫁の背中を兄嫁が、

体当たりするように強く押した。


けれど、弟嫁は、岩場に強く頭を打っただけで

頭から血を流しながら、うつ伏したまま兄嫁を見た。

そして、「どうして・・・・?」と小さな声できいた。


その言葉に余計に兄嫁はいらだった。

「人のこと馬鹿にして!!

 いい子ぶって、かわいがられて

 あなたのせいで、私は使用人にまで陰口を言われしまうのよ。!!」


そして、兄嫁は、弟嫁の頭の上にナイフを投げた。

そのナイフは、兄嫁が自分の気持ちがゆらがいためにと

お守りのつもりで持ってきていた。


そして、弟嫁に怒りの言葉を投げつけ

その怒りの勢いと共にナイフを手にし

弟嫁の背中に差した。


そして、しばらくの間、動かなかった。

そして、ふっと弟嫁の息が切れたことを感じた兄嫁は、

弟嫁の体から離れ、その場に座り込んだ。


そして、少しして我に返り、周りを見回し身なりを整え

足早に家に帰った。


家にいた夫の両親に帰宅のあいさつをし寝室に戻った。

寝室にいた夫が

「お帰り、楽しかったみたいだね」と言った。


兄嫁は、その言葉にびっくりした。

「・・・ええ、楽しかったですよ。」と応えた。

夫は、「そうか、それはよかった。」


兄嫁は、いつものようにしていたつもりが、

自分が邪魔に思っていた弟嫁がなくなったことで

気づかないうちにいつもより明るい気持ちになっていた。


次の朝は、いつもよりずっと明るい気持ちで目を覚ました。

今までのことがウソのように、

昨夜のことも忘れているくらいだった。


そして、夫の弟から弟嫁のことを尋ねる連絡が入る。

兄嫁は、途中で別れたといい。心配するふりをした。


そして、弟嫁がなくなっていることが分かる。

当分バタバタとしたが、実家の家柄のおかげで

兄嫁は疑われることはなかった。


それから、数カ月たったころ

夫が兄嫁に「何あったのかい?」と突然聞いてきた

「何が?」と兄嫁が答えると

「弟嫁のことで何かあったのかい?」と

また、夫が聞く

「・・・弟嫁と観劇に行った夜から君は明るくなった。

 それは、うれしいことだと思ったけど

 あんなことがあったのに、君は、前よりも明るくなった。

 以前の君だったら、いろんなことを聞かれたりすることを

 もっと苛立っていたはずだ。」


その言葉を聞いていた兄嫁の様子が少しずつ変わるのを見て


夫は、続けた。

「いやいいだよ。君が明るく楽しそうにしてるのは嬉しいんだ。

 君は、潔癖すぎるくなところがあるから

 この家に来て、無理をして

 体でも壊さなければいいと思っていたんだよ。」とあわてるように言った。

  

をの言葉を聞いたとき、

兄嫁は、夫が自分を気遣ってくれていたことに

夫の気持ちに気がつき、

何かが切れたように大きな声を出し泣きだし

自分の憎さを知った。