光の中で | おはなしてーこのお話

おはなしてーこのお話

ふっと生まれたお話や感じたことを書いてます。

初めて、自分の願いのために祈る。

本当は、こんなことはしてはいない。

それが掟。


そう思いながら

社のある小さな島の崖にそばに

小舟に乗ってやってきた女性。


その小舟で、ひとしきり悩み

彼女は、薄い衣を頭からかぶり顔を覆った。


そして、気持を決めたように立ち上がった。


そして、社に手を合わせた。


私は、ひとの願いを届けるために祈ることだけを赦されていた。

けれど、今だけは祈らずにいられない。

今だけ、今だけは、許してほしい。


そんな、悲痛なほどの想いを彼女は持って、ここにやってきた。


彼女の心が聞こえてくる。

「どうか許してください。

 この願いを聞き届けてもらえるなら

 私に託されたこの力をささげてもいい。」


そういうとやっと願いを話し始める。


「どうか、あの方の命を

 あの方を今ここにつなぎとめてください。

 どうか、この願いを聞き遂げてください。」


そう言って、彼女は、その社に話かけるように


「あの方は、私に力を下さいました。

 あの方の生きる姿が、私には支えでした。

 だから、どうかあの方を助けてください。」


そう言って、彼女は、いつも願うように祈りをささげた。


静けさの中、彼女の乗った船が揺れる。

その揺れにも動じず、彼女は願い続ける。


その姿は、月の光に差され

その光の筋と一体になってるように見えた。


波の揺れる音風の音、風に揺れる草木の音

感じるものすべてが、神の応え。


彼女はそれを続ける。

そして、その中で祈り続ける。


彼女は思う。

自分にとって大切な人のために

祈りすらささげられないなら

こんな力はいらないと


彼女は、ここで人々の願いを聞き

海の沖に浮かぶこの社に願いを届け

神とつなぐことを、代々やってきた家に生まれた。

この社の神に守られ、この社を守っていた。


その彼女が禁を犯し

ここに立ち、願い続ける。

その姿は、とても美しかった。


そうして、彼女はそこに立ち続けていた。


「おまえは、私の子供のようなもの

 おまえの願いをかなえてやりたい…

 それが、どんな望みでもおまえが幸せなのであれば

 私は、何でもするよ。

 だか・・・

 これは、おまえが慕うあの者が望まなければ

 どうにもすることができない。

 

 ただ、今、あの者ところに使いをやった。

 おまえのその想いを持たせて

 その想いを受け、あの者がどうするかは

 あの者次第なのだ。

 

 おまえは、その想いを届け続ければいい。

 ずっと、あの者に届くようにしてある。

 だから、おまえはおまえのやれることをすればいい。」


そんな声が、彼女の心に響いてきた。

彼女は、前にも増して光に溶け込み

祈り続けた。