黒澤さんの映画の中で一番好きなのが、実はこの「隠し砦の三悪人」なんです。

中でも三船さんと藤田進さんの一騎打ちのシーンは凄まじかった。

槍で戦うというのはこういうものなのかと、思わず見とれてしまった者でした。

・・・が、今回の映画ではそのくだりが全くない。

ただ、藤田進さんの「裏切り後免!」という台詞のみ、2度にわたって出てきた。この映画のキーワードですね。

言葉の重み、その意味合いはだいぶ変わってしまったけど・・・これはこれで悪くないか。


長澤まさみ・・・良かったです。

どこまで意識してやっていたのか分からないけど、最初はすごく美しい。そして六郎太らと早川領を目指して進んでいくと、目の下や頬にやつれが・・・メイクなんでしょうけどね・・・彼女の目つきもきつくなって、旅の過酷さを表していると思いましたよ。弓を構える姿も様になっていて、そうとう連取を摘まないと、ああも見事に構えられないでしょうね。


阿部寛さんが素晴らしい役者なのは先刻承知。真壁六郎太を見事に演じられていた。

太平っと又八のコンビ・・・あのスターウォーズのR2-D2C3POのコンビの元となった二人だけど、この二人は武蔵と新八と名前が変わっていたが・・・これはなんでなんだろう?二人とも予想以上に演技が美味くて驚いた。

國村隼、高島政宏らもいいねぇ。

椎名桔平の行部は・・・好きになれなかった。なんかね、目元や声にこの役に必要な重さというか酷薄さが足りなかったような気がする。でも、彼のあの甲冑姿は、まちがいなくダース・ベーダーを意識したものだよね。元の作品がスターウォーズに影響を与え、本作品がスターウォーズのパロディを組み込む。なかなか面白いぞ。


冒頭とラストの爆発炎上シーン・・・あれはなかった方が・・・個人的には好き。っていうか、そのせいで首を捻らざるを得ない部分が出てきている。ネタばれしすぎになるので詳しくは書かないけど・・・最後の炎上シーン・・・それは無理でしょう?って思わずつぶやいちゃった。


樋口監督の作品を見るのはたぶん初めてで・・・「戦場のローレライ」も新しい「日本沈没」も観ていないのです。なので、どんな監督なのかと思ったが、なかなか優秀な監督さんですね。カット割り、テンポの取り方がなかなか上手い。

それと色調の使い方がすごい。物語が終盤に来るまでは彩度を落として重苦しい雰囲気を作りながら、早加療にはいると一転して明るい鮮やかな色が・・・たぶんそうするんだろうと途中から思っていたけど、思っていても実際にそれを見せられるとその鮮やかさに心奪われる。前述の長澤まさみさんの表情・顔色の変化の付け方といい、実に巧みに細部まで気を配って作品を作られる方なんですね。

この人が監督した他の作品も観たくなってきました。


黒澤作品の「隠し砦の三悪人」とはずいぶんと違うものになっているけれど、そもそも同じものを作るのなら作る意味がない。新作の「犬神家の一族」や織田裕二の「椿三十郎」なんか、ある種の実験として以外の意味は全くないと思う。何でもかんでも過去の名作を作り替えられたらかなわないけど、たまにはこう言うのもありですね。

黒澤作品に囚われすぎの人からは評判が良くないようですが、私はかなり楽しめました。