「鶴園さんもここ、よくいらっしゃるんですか?」
山住は、いつもの優しい笑顔で聞いてきた。
「ええ、たまに休みの日には…」
俺は、言葉を濁していた。まるで自己防衛をするように。
「あの15階のみなさんは、よくうちに
来てくださるんですよ。」
ママが話に割り込んで来た。
「以前、わたしもあそこに住んでたのよ。
ねぇ、山住さん」
「うーん、確か1507だったよね。」
山住とママの話によると2年前まで
1507に住んでいたらしい。
「あの高木って若い刑事さんも同じくらいに住んでたのよ。」
ママが秘事を話すように声を落とした。
「そうかぁ、だからあの刑事さんの顔を何処かで見た事あると思ったのか」
山住は、少し戯けながら話を続けた。
「実は、連れの東刑事が行方不明なんだそうだよ。不気味すぎて、あのマンションの仕事、辞めようかなと考えてるんだ。こっちまで何かに巻き込まれそうな気がして…」
山住は、グラスを両手で包み込みながら
そう言った。
「鶴園さんは、平気なの?わたしだったら
怖くてすぐにでも越しちゃうわ」
俺は、返答に困った。
「いや、越せない理由があると言うか…
なんと言うか…」
ママの目が好奇心に包まれていた。
「俺、実はある女をずっと取材で追っていて…その女は、2年前に亡くなったんですけど…いや、正確には死体は見つかってなく行方不明なんですが…」
俺は、ある2年前の事件取材に関わり
その女の行方をプライベートでも
追っていたのだ。
女の名前は、今井礼奈。
姿なき女に、俺は恋をしていた。