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ドブ川で泥水をすすって年月を経ると、嘘も言い訳も堂に入ったものである。
こうした稼業が板に付くと、感情の抑揚を表す事なくしれっと黒を白と言ってのける事ができる。まず至芸と言って良い。
この私などは、昨夜どこにいたのよ、と問い詰められれば、目は泳ぎ、或いは虚空を見つめ、夏の日に氷をたっぷり浮かべたカルピスのグラスのような汗が吹き出し、両肩甲骨の間に冷たい一条が腰へと伝い、長らく親しんだ日本語が忘却の埃を被り、どうにか未知の言語で詰問に対応する。
嘘つき稼業のあの芸の欠片だけでも私に備わっていたなら、私の日常はどれほど安寧に満ちているか知れないのだ。

学歴フィルターの存在について言及する企業はない。ないけれど、実際にそれは存在するものとして就活なるものは行われている。
了解した覚えのない暗黙の了解として就活は展開され、これを逆に言えば、学歴フィルターがあるものとして高校時代を過ごし、やがて然るべき大学に入学した者にとってみたらば学歴フィルターは無くては困るのであろうが、問題なのは学歴フィルターが存在しながら、さも誰にでも門戸が開かれているかのようなポーズを取る企業なのであって、学生たちはそれに振り回されているだけに過ぎない。もちろん、そのような卑怯な振る舞いをする企業に入り、自らも泥水をすすりたいか、と言う問題は発生しようが、こればかりは好みの問題である。生態系の問題である。泥水でしか生きられない魚もいるのだから。
いっそ、我が社には学歴フィルターがあります、いくつかの例外を除いて優先的に採用する大学の基準があります。と言えばよいのだ。実際にはその通りであるのに、それを積極的に認めようとしないから卑怯の誹りを受けるのである。

少々悪態をついたけれど、これを企業の側から考えると学歴フィルターなるものは非常に合理的であると言えなくもない。
就活の書類選考だか、面接の数回だか、この短期間に件の人物の才能やら能力やらを見出すのは非常に難しい。採用担当に人を見切る慧眼があれば別だけれど、残念ながら彼らは凡人である。凡人に煌めきの事は分からない。で、あるなら学歴、出身大学と言う分かりやすいもので担保する方が手間と時間が省けると言うものだ。
そもそもである。ずば抜けた能力のある学生は最初から就職でなく起業やら研究を選ぶのであるし、もし就職しても一生を企業で過ごそうなどと思うまい。その後に続く二群、三群と連なる学生達の詳細を考慮していては時間がいくらあっても足りないのだし、出身大学でふるいにかけてしまえばある程度の水準は確保できるのだから、これに優る方法はないのであろう。
企業にとって最も低リスクで人的資源の点で最も消極的な人材採用法を学歴フィルターと称するのである。

人生と言うものは探せば愉しみに突き当たる。殊に昨今の日本国では愉しみを見出す事が困難であるけれど、面白い事を見出そうとすれば、面白い事はなんとか転がっているものだ。
大企業の採用担当と同じく、私は人を見る目に関しては凡人だけれど、大企業の凡人との一番の違いは時間がある事である。
例えばコンビニに行く、従業員さんやパートさんのうち、客の捌き、接客姿勢、何より忙しい時間帯で幾つかある筈の仕事の優先順位のつけ方が際立っている、
そうした人を予めチェックしておき、あらゆる時間帯で彼の、彼女の、仕事ぶりをつぶさに観察する。
数ヶ月から半年、仕事ぶりを見せてもらいながら、個人的にも親しくなっていく。
そしてこれは埋もれていた原石だと判断した人を私は友人が経営する企業に紹介するのだ。
以前のブログ『輝ける路傍』で出てきたMさんも、私の紹介で友人企業に勤めて3ヶ月、こう言っては何だが彼女の給与はコンビニ時代の2.5倍、何より彼女はそれを遥かに上回る利益を会社にもたらしているのだ。
してやったり、である。私は鼻高々である。
Mさんの学歴は高卒、しかし然るべき大卒者と比肩しうる仕事量と精度を誇る。賢い、とは何を指し示す尺度であるのか私は世に問いたい。
私は口入れ稼業ではないから、紹介料などは取らない、ただ愉しませては貰う、贅沢な人生の愉しみ方だと思うのだ。

何もかも凋落の一途を辿る日本国。
映画やドラマならば彗星の如く救国の士が現れて国家国民を導いてくれるのであるが、実際にはどうか。
既存の政治家や官吏にそのようなカリスマは皆無であろうし、服屋やIT企業の旦那が宇宙旅行だ、球団買収だと騒いでもスケールと哲学と理念がない。
もし、国家と国民とを率いるカリスマが現れるとしたらば既存の教育システムや組織などとは全く別のルートを経てくるような気がする。
歴史上事を成した人々を見て欲しい、彼らは必ずしもその当時の最高学府を出ていない。
先例を踏襲さえすれば何となく回って行った時代とはとは違うのだ。先例を手本にした事務能力は平穏な時代には役立つけれど、変遷の時代にはカリスマたり得ないのだ。

そう思うと、学歴フィルターなどと実に些末な事に思えてくる。

若い君を良く知りもせず、手軽な方法で落とす企業が阿呆なのや、そんな会社は君の方で願い下げなのと違うか

落ち込む必要など全くないのだ。



南無