集落の区長の妹にして自称クールビューティー、トミエ。
そのトミエが最近しきりと私に尋ねる
「ゆづくんの結婚相手って誰なのかなぁ…」
私の知った事ではない。そのような不毛な事を日に二度も三度も訊かれてはたまったものではない。
だいたいトミエは大谷くんと結婚する予定ではないのか、彼女の羽生結弦くん好きは知っていたが、あれは終わった恋ではないのか、全くわけわからん。
だいたい大谷くんにしても羽生くんにしても彼らの側にも選ぶ権利があるのだ。結婚してあげても良いわ♡、とは何の事か、身の程知らずも甚だしい。
羽生結弦くんには幸せになって欲しいが、さりとてパートナーが誰であるかなど興味は無い、そもそも大谷くんにしろ羽生くんにしろモテる男は男の敵ではないか、くやしいったらありゃしない。モテる男の情報など最初から耳にしないのが一番なのである。それが日々を平穏に暮らすコツである。

思えば、恋と言うものを媒介にして人が人に惹かれるのは何の作用によるものか、ルックス、性格、知性、財布の中身、社会的地位、より純粋なものから打算的なものまで、ありとあらゆるものが、人をして人の魅力たらしめている。
翻り、中国と東アジア広域には運命の赤い糸、なる伝説が広く流布されている。人によっては西洋の伝説であるかのように誤解する人も多いけれど、この赤い糸はアジアオリジナルである。
運命の2人は赤い糸で結ばれている、どんなに遠く離れていても、或いは人混みにあっても、決して切れる事なく、絡まる事なく、しっかり2人を結びつけている。
中国の原典版では二人の足首に赤い糸が結びつけられているらしいが、我が国では手の小指である。
私なども多感な頃には虫めがねで何度も手の小指を凝視したけれど、そのようなものが結びついている気配などない。クラス一番の美女Mちゃんに結びついているよう何度もお星様に願いをかけたけれど全ては虚しかった。
だいたい、である。目に見えない運命の赤い糸、見えないのになぜ赤いと分かるのか、当時の多感な私は運命に対していきり立ったものだ。

遅れて来た乙女トミエ、彼女の運命や如何に。この集落全体の安全保障上の問題から、願わくば今しばらく大谷くんには結婚を控えてもらいたい。
トミエと同じ場所にいては、羽生結弦くんへの未練ばかりを聞かされるから、私は早々に退散して隣家のツタヨばあちゃんの家に行く。
このブログで何度か登場している、私の2時間サスペンス友達である。
おやつをゴチになる事もあれば、昼食、夕食をゴチになる時もある。それだけでなく、お風呂まで頂く事すらある。
この日もツタヨばあちゃんは素麺を茹でてくれた。薬味たっぷりのツユが美味しい。
ふと気付くと、素麺が入ったガラス鉢に一本だけピンク色した麺が漂っている。
ほう……ピンク麺や
私はなにげなく、そのピンク麺を手に取ってみた

はっと我に返る私

まさか…ね


ふふ