任意の状態で紛争が起こる。刑事ではない、純然たる個人間の紛争である。その紛争が即時民事訴訟となり得る場合は弁護士がこれを担う。要件として訴訟となり得るか不透明で、且つ、その紛争自体が一般論として瑣末な事案であった場合、そしてその紛争当事者の何れかが外国人であった場合、お節介者の私が呼ばれる事がある。
いったいお節介などと言うものは匙加減が難しいもので、多かれ少なかれ当事者にとっては立ち入った事柄となる。
故にそこへわざわざ仲裁に入る者は相当の胆力と根気と寛容と交渉力を要する事になるし、一方が外国人である場合はより一層大変だ。

京都に住みたい外国人は多い。京都かパリかロンドンか迷った挙げ句に京都にした。と、なかなかかわゆい事を言ってくれる外国人もいるほどだ。
だが、そんな熱い思いを抱いて京都に来てくれても、文化や習慣に不慣れなばかりに、住人とトラブルを起こし、心にしこりを残したまま本国に帰る外国人もいるのだ。
このような事は互いの無理解と誤解に起因するものがほとんどである。中にはあからさまな外国人差別を口にする人もいるけれど、そうした人に私は無力である。レイシストは自分が差別されなければ分からないのだから、差別の場所へ行ってもらうより仕方がない。残念な事に日本人が差別される場合はいくらでもある。改心したら戻って来たら良い。

私がお節介をするのは両者が歩み寄る余地があると認められる場合である。差別主義者に何を言っても始まらないのだし、思想改造は私の領分ではない。
お子ちゃま食堂、その個別家庭教師、私塾、執筆、山にも行くし、デートもある、あまあまだって買いに行きたい、全て無報酬で東奔西走する私にはレイシズムに付き合う時間などないのだ。対差別には相応の弁護士を紹介する事としている。
さて、ここで久しぶりに私の手下どもが登場する。
イタリア人のフランコ君(仮名28歳)
スイス人のペーター君(仮名32歳)
フランス人のオリビエ君(仮名27歳)
行きがかり上、手下としたけれど正確には兄弟分である。それぞれ古式に倣いジャージーミルクで二分八の兄弟盃を交わしてある。
それぞれが京都で職を得て、特にフランコ君に至っては以前のブログでお伝えしたように、私が紹介した日本女性ちゃんとラブラブである。
ほんとに悔しいったらありゃしない。他の二人は兄貴分と同じでフラれてばかりいる。

【これよりのちは、彼らとの細かなやり取りは普段英語で行う事もあり、適宜、私が翻訳した二ヵ国語放送と致します。御承知おき下さいませ】 

1週間ほど前、フランコ君がこのような事を言った
(((BILINGUAL)))
「アニキ、ボクの知り合いのアメリカ人なんですが、最近、日本人ともめてるらしいんですわ」
「うむ、わかった、行こか」
京都に住もうとする、そして日本LOVEの外国人は、条件さえ許せば京町家に、それが叶わぬなら借家に、更にそれも叶わぬならアパートに住む。
フランコ君の知り合いだと言うアメリカ人は借家に住んでいるらしい。予備知識を整理すると、もともとアメリカ人2人で住んでいた借家であったが、そのうちの1人がアメリカへ帰る事となり、1人残る事となった件のアメリカ人が改めて大家さんと契約を交わしたものの、細かなルールやらが上手く伝わっておらず、騒音やら、ゴミを巡り付近住民から大家さんにクレームが入ったとの事だ。
アメリカンはまだまだ日本語が少ししか話せず、さりとて大家さんもさほど英語が話せず、またさりとてフランコ君も仲立ちできるほどの日本語力があるわけでなく、私の出番と相成ったのである。

なんか、気分はシチリア移民の揉め事の仲裁に入るヴィトー・コルレオーネみたいだ。
フランコ君はシチリア出身ではないけれど、クルマもホンダの軽だけれど、妄想の中ではアルファロメオ 6C2500 フレッチア・ドーロだ。
頭の中でゴッドファーザーのメインテーマが流れだす。ここは名優マーロン・ブランドにならねばならない
(((BLINGUAL)))
フ「ボス、着きました」
カ「うむ」

フ「呼んできます」
カ「いや、私から行こう」

クルマから下りてゆっくりと辺りを見回す私、物陰、電柱の脇、敵はいないようだ
相手はアメリカンであるから呼鈴ではなく、アメリカ風に玄関の引き戸をコンコンコンとノックする
(((BLINGUAL)))
アメ「誰だい?」
フ「オレだよ、いい人を連れてきた」
やがて物音と共に白い影が姿を現し、玄関が開いた、身の丈は180センチを越えようか、ただ顔つきは思ったより柔和であるし、何よりカールした頭が特徴的だ。ああ、荒くれ者が出て来なくて良かった…私は心から神に感謝した。
(((BLINGUAL)))
フ「ボス、ジョン(仮名)です。ジョン、こちらドン・カタシオーネ」
ジ「はじめまして、光栄です」
カ「で、どうしたのかね、言ってごらん」
ジ「突然の事で、何から話したら良いか…僕は音楽が好きで、まぁそれは確かに夜でしたが、問題のない音量だったのに、大家さんが現れてもう出て行って欲しいと、無茶な事を。行くところなどないし、どうしたら良いのかと」
カ「君と今まで家をシェアしていたもう一人の彼がいた時は問題はなかったのだろう?つまり君が1人暮らし始めてから問題が起こりだした、そうだね?」
ジ「それは…まぁ、そうなんですが、音楽を聴く権利はあるでしょう、合法でしょう?」
このような極めてアメリカンな主張の仕方を聞くと呆れるし、嬉しくなってしまう。legitimacyとは合法性とか正当性と言った意味だ。権利の国の人らしいものの言い方だと思う。
(((BLINGUAL)))
カ「君の言い分はよく分かる、しかし近所の皆さんにも静かな夜を過ごす権利があるのだよ、分かるね?」
ジ「分かりました、気をつけるようにします」
カ「ありがとう、ところで何の音楽を聞いていたの?」
ジ「ジャズです、エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングのデュエットの……」
カ「おお、君は分かっているねぇ…私はあれのThe Nearness of Youが大好きなのだよ」
ジ「僕はナッシュビルの出身で音楽には小さな頃から親しんできたのです、今度聴きに来て下さい」
カ「それは素晴らしい、私も是非ナッシュビルの話を聞きたい。さて、今から大家さんの所へ行こう、私が話すから君は黙っていれば良い、ただキヲツケマスだけ言いなさい、これは謝罪の意味ではない。分かるね」
それから彼と二人、大家さんと主だったご近所さんの家に行き、21時以降の度を過ぎた音量の音楽、友人たちとのパーティ、ゴミのルールの徹底などを確認事項とし、何かあれば私のところに連絡するべく大家さんにお願いをした。
よく言われるように、日本人の、いや申し訳ない、と彼らのI'm sorryは重さがまるで違う。こうした交渉の席でI'm sorryを外国人に強いてはならない。いや、状況を改善する事が目的なのであって、ごめんなさいは私が言えばよい、私と一緒に彼が頭を下げれば、ごめんなさいの意味になる、それは手段だ。
彼さえ自分の行動のいけない所を理解したのならば、それで良いのだ。
幸い、大家さんもご近所もしまいには笑って送り出してくれた。今回は良かった。でも話し合いがこじれた事は何度もある。
ドン・ヴィトー・コルレオーネはこのような場合に現金を握らせた。もちろん、その意味するところは暴力を背景にした威圧である。私の財布には図書カードとICOCAしか入っていないし、こんなかわゆい顔では威圧にもならない。
結局のところ、この種の交渉は誠意を尽くすより他ないのである。
(((BLINGUAL)))
ジ「ドン・カタシオーネ 今日はありがとうございました」
カ「うむ、何かあれば私かフランコに連絡しなさい、今度ミルクでも飲みに行こう」
ジ「分かりました、ではまた」

颯爽とホンダに乗り込む私、フランコ君も安堵した様子だ。再びゴッドファーザーのテーマが流れる、今夜はいい仕事をしたぜ
帰ったならジャージーミルクをロックのダブルでいこう…
今夜の曲はThe Nearness of You、エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングだ

It’s not a pale moon that excites me
That thrills and delights me
Oh no,
It’s just the nearness of you

I t isn’t your sweet conversation
That brings this sensation
Oh no,
It’s just the nearness of you

When you’re in my arms
And I feel you so close to me
All my wildest dreams
Come true

I need no soft light to enchant me
If you only grant me
The right to hold ever so tight
And to feel in the night
The nearness of you


 【カタシ意訳】
こんなに心がときめき、たかぶっているのは蒼い月のせいじゃない。そう、違うの
それはあなたのそばにいるから

こんな気持ちになるのは、あなたの甘い言葉のせいでもない。そう、違うの
それはあなたのそばにいるから


あなたの腕の中にいると、もっとそばにあなたを感じて
わたしの夢の全てが叶ってしまう


心を癒すやわらかな明かり
それさえもいらない 
もしあなたが抱きしめてくれるだけで
ずっと抱きしめてくれるだけで
今夜そう思うのは
あなたのそばにいるから

【DJカタシ】
これは恋の唄ですが
あなたのそばにいる人を大切にしませんか
ついついささくれ立って
思いがけず酷いことを言ってしまう事も
酷い態度をとってしまう事もあります
でも、その人との時間がある日突然終わったら
なんの前触れもなく時が閉じてしまったら
きっとあなたは後悔をします
顔を見て、その人の瞳を見て話せば
案外分かり合えるものです
恋人、パートナー、身近な人、近所の人
そばにいる人を大切にして下さい
青臭くて、照れくさいですが
とても大事なことです



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