この数日体調を崩しておりましたが、皆様の御厚情を賜り、どうやら日常を営むところまで回復致しましてございます。
ついてはお言葉を下さった方々、いいねを下さった方々、拙いものをご覧になって下さった皆様、誠にありがとう存じます。
この上はカタシ益々励み、僭越ながら皆様の暫しの憩いをなす所存にございます。
今後とも何卒宜しくお願い致します。

さて、みぎわさん。である。
アニメちびまる子ちゃんで脇を固める個性的な彼女。その彼女が発したセリフから、今回の話は始まる。
過日、みぎわさんの曰く
「あたしは泡と消える運命の人魚姫なのよ」と。
ちびまる子ちゃんもこれだけ長らく放映していると、世代別でイメージが随分違ってくる。
現在はほのぼのと当たり障りない出来事を主体にした日常と学校生活ものであるが、その初期はわりあいに尖った内容が多かったし、シニカルで、ブラックな展開のものも多くあった。
私が知るちびまる子ちゃんは、まさにそんな頃の「面白い」ちびまる子ちゃんである。
ご存知の通りみぎわさんは花輪くんに恋をしている。そして、みぎわさんはある回で自身を人魚姫になぞらえて前述のセリフを言い放ち、まるちゃん達を狼狽混乱させた。
はて、泡と消える。とはどんな意味であろうか、当時の私はアンデルセンが書いた人魚姫の顛末を知らなかったのである。
そこでなるべく原作に忠実な翻訳を選び、人魚姫を読んでみる事とした。

【あらすじ】
話は人魚姫が15歳の誕生日を迎えた夜に遡る。波間を漂っていた人魚姫は船を見つけ、そこにいた美しい王子に一瞬で心を奪われる。
ところが、その夜に船が難破し王子が海に投げ出されてしまう、人間が海中で息ができない事を知った人魚姫は波の中で必死に王子を支え続けたが、王子は気を失ったままであった。やがて夜が明けるとき、人魚姫は浜辺まで王子を運び、そこにそっと寝かせて様子を見守る。そこにたまたま年若い修道女が通りかかり、王子を修道院に連れていき、その様子を見た人魚姫は一安心して海に帰って行く。
やがて意識を取り戻した王子は修道女を命の恩人と思い込み、そして彼女に心惹かれる。
一方、王子に恋をした人魚姫は祖母の元へ行き、人魚と人間との違いを問う、祖母は
「300年生きられる自分たちと違い人間は寿命が短い。だが、死ねば泡となって消える自分たちと違い人間は魂というものを持っていて天国に行く」と言う。ではそれを手に入れるにはどうしたらいいのかと尋ねると「人間が自分たちを愛して結婚してくれれば可能だが全く姿の違う人間が人魚たちを愛することはないだろう、諦めなさい」と答える。
それでも王子を諦め切れない人魚姫は海の魔女の元を訪れ、、美しい声と引き換えに尻尾を人間の足に変える飲み薬を貰う。その時に「王子に愛を貰うことが出来なければ、お前は海の泡となって消えてしまう」と警告を受ける。しかし、人魚姫の決心は変わる事なくその薬を飲んでしまう。
時を経ずして、人間の姿で倒れている人魚姫を王子が見つけ介抱するが、もう声を出すことができず、あの日自分が王子を助けた事を話す事ができない。
人魚姫を不憫に思った王子は彼女を城に住まわせる事にする。たびたび二人で出かけたり、一方的ではあるが王子から人魚姫に様々な事を話して聞かせる。自分には命の恩人がいる事、その人に心惹かれている事、そして、彼女は修道女であるから自分と結婚などはできない、だから結婚しなければならないとしたら、彼女とよく似ているおまえと結婚するよ、と王子は人魚姫に告げた。
ところが、そんな王子に縁談が持ち上がる。相手は隣国の姫、そしてその姫こそ修道院のあの彼女であった。彼女は修道女になったのではなく、教養を身につけるべく修道院に寄宿していただけであった。
二つ返事でこの縁談を受け入れる王子。
人魚姫は悲嘆にくれ、しかし同時に王子の幸せをも願う。そこにこの話を聞きつけた人魚姫の姉たちが海の魔女から貰ったと言うナイフを持参する。このナイフに王子の流した返り血を浴びせる事で元の人魚の姿に戻れるという魔女の伝言をも人魚姫に伝える。眠っている王子に人魚姫はナイフを構えるが、手を震わせた後ナイフを遠くの波間へ投げ捨てると、海はみるみる真っ赤に染まった。人魚姫は愛する王子を殺すことと彼の幸福を壊すことができずに死を選び、海に身を投げて泡に姿を変えた。結局は王子の愛を得られずに泡になってしまった人魚姫だったが、彼女はそのまま消えてしまったわけではなく風の精に生まれ変わり、泡の中からどんどん空に浮かび上がっていった。
生まれ変わった彼女は(自分の最期を知っているはずがないのに)海の泡を悲しそうに見ている王子と花嫁を見つけ、王子のお妃となった姫君の額にそっと接吻し、王子に微笑みかけたあと新しい仲間たちとともに薔薇色の雲の中を飛びながら、風の精となった自分であるが、人々に喜びを届ける事で人間のような魂を得て天国へ行ける事を知るのだった。



……王子様、それはいかんやろ。
人魚姫、じれったいなぁ…そんな男やめちゃいなよ…

と、思わなくもない。みぎわさんが言う海の泡とはまさにこの悲恋の事を指している。
私とて男の端くれであるから、こうした事を耳にすれば、まず王子様を非難したくなろうと言うものだ。少なくとも私ならば修道院の姫とは結婚しないであろう、そして人魚姫とも分からない、人魚姫の命がかかっていないなら結婚しないような気がする。ただ幸か不幸か私は王子様ではないし、市井のただのカタシである。
いや、これは公開中のリトルマーメイドに難癖をつけているのではない、リトルマーメイドは題材を人魚姫に採った全く別の商業作品であるし、第一人魚姫を忠実に再現したのでは商業として成り立たない。
ちょうど日本の太巻き寿司が彼の地でカリフォルニアロールになるようなもので、これは似て非なるものであるし、原作とその関連性のいちいちを詮索するのは野暮と言うものである。あれは娯楽作品であるのだからあれで良いと思う。
ルッキズムを持ち出す気はない。だが、こうした作品内容を描く場合、映画であれ、ドラマであれ、アニメであれ、その悉くはイケメンと美女の物語でないと成立しにくい。もちろん人魚姫の原作も美しい王子と美しい人魚の物語である。
リトルマーメイドもそうした古典的な手法で作られている。恋愛を描いたものであれば、その呪縛から逃れる術はないのだし、万が一にも私によく似た男が王子様を演じればただのコメディである。
ヒロインの肌の色を揶揄する人もいるが、殊、恋愛物語としてのリトルマーメイドは非常に保守的で前例と言う名の完全なレシピに沿う形で仕上げられていて、急進的な要素は皆無である。
娯楽作品であるのだから、肌の色であるとか、社会へのメッセージであるとか、そうした事は些末な要素であるように思う。
社会へのメッセージを重要視するならば、原作に忠実に再現すれば良い。
悲嘆や涙もまた人生のうちなのだから。

ただ…
みぎわさんがアリエルを演じる
それも見てみたいけれど……

ふふ