グーグルが国内のキャッシュレス決済に本格参入するとの報道が出ました。基本的には歓迎すべき動きだと思います。
 銀行しか金融機能を担えなかった時代であれば、利用者は銀行の支店まで足を運んで長時間待たされながらも用を足しましたが、銀行以外も送金や決済が出来るようになった今となっては、支店に行くどころか、銀行が提供するアプリをわざわざ開く人は少数です。他方で、アマゾンやLINE等のプラットフォーマーのサービスには日に何度もアクセスします。デジタル社会はユーザーとのコンタクトポイントが決定的に意味を持ちます。楽天という強力なコンタクトポイントを有する楽天証券の口座数がもの凄い勢いで伸びているのもその証左です。ここにグーグルという圧倒的なコンタクトポイントを持つ事業者が参入すれば、消費者利便を高める金融のデジタル化は更に加速しますし、既存の金融機関にとっても上手く協業できれば決して悪い話ではありません。
 しかしながら、懸念する点がないわけではありません。近年、プラットフォーマーによる不当な個人情報の収集や利用を防ぐ観点から個人情報保護法等が改正されましたし、オンラインモールやアプリストアにおける優越的な地位の濫用を防止する観点から新法も成立しました。この点、送金や決済データは機密性の高い情報のかたまりですし、プラットフォーマーが送金や決済に加え、融資等に業務範囲を拡張した場合、個人や事業主に対する優越的な地位の濫用や利益相反のリスクも高まります。
 巨大なプラットフォーマーは米国だけでなく中国にも存在します。金融は産業の血液と言われてきました。まさに経済の生き死に関わってきます。海外プラットフォーマーによる金融活動が広範になった場合、国益を守る上でも彼らにどのような規制を課しどのようなモニタリングを行っていくか真剣に考えねばなりません。こうした問題意識を踏まえ、昨夏の経済成長戦略本部の提言では「銀行グループと事業会社グループの間のイコールフッティング確保の観点から、事業会社が保有可能な銀行の範囲についても、既に存在する銀行を保有する事業会社グループへの影響には十分留意しつつ、検討する」との文言を入れました。政府には速やかに検討を進めていただきたいと思います。