住宅団地再生に関する中間提言

~ 人生100年時代の「住宅団地」を正面から捉える ~

 

 

 平成29年12月1日

住宅団地再生に関する若手勉強会

 

 

 我が国では、高度成長期を中心に都市圏への人口集中への対応のため、国策として、主に郊外において住宅団地の建設を推進し、居住ニーズに応えてきた。

こうしたニュータウンをはじめとする住宅団地は、自然環境に恵まれると共に、インフラも充実するなど、後世に残すべき優良な地域の社会的資産としての面を有している。  

一方で、建設から相当期間を経過した現在、多くの住宅団地においては、開所時に同時期に入居した居住者が一斉に高齢化したこと等により、地域コミュニティの停滞、地域経済の停滞、買物や公共交通の利便性低下などの課題が顕在化し、また、若者・子育て世帯等の新しい世帯の転入が進まず、空家の大量発生前夜の様相を呈するなど危機的な状況にある。

 多様な働き方や生き方が拡大する人生100年時代を見据え、住宅団地は、高齢者から若者まですべての人々にとっての活躍の場であり、そして安心して暮らすことができる生活空間として再生していかなければならない。

こうした住宅団地の再生に関し、これまで本勉強会では、関係省庁、地方公共団体及び民間事業者の取組に関するヒアリングを行い、その在り方について検討を行ってきた。検討を通じて得られた知見をもとに、これから取り組むべき方向性について以下提言する。

  

 

1.住宅団地の再生を国家的問題として取り組むこと

・ 住宅団地は、北は北海道から南は沖縄まで我が国の全国に分布している。そして、その整備に当たっては新住宅市街地開発事業をはじめとして、国の整備した法律や財政支援の下で整備が推進されてきた経緯がある。さらに、同一世代が一斉に入居したこと等を要因とする現在の住宅団地を巡る課題は、少子・高齢化問題を局所的に深刻化したものであり、地方公共団体のまちづくりの問題にとどまらず、国家的問題として対応することが必要である。

・ こうした住宅団地を巡る問題に対しては、都市・住宅政策だけでなく、地域交通政策、子育て・高齢者福祉政策、地域振興・活性化政策など多様な政策を総動員し、関係省庁が連携して取り組むことが必要である。

・ このため、新たな法整備を視野に入れつつ、当面は政策の推進に効果的な財政的な支援策の充実を図ることが必要である。

 

2.多様な主体の連携による取組を推進すること

・ 多様な課題を抱える住宅団地の再生にあたっては、国・地方公共団体などの公的機関だけでなく、そこに居住する住民や関係する民間企業、NPOなど多様な主体が連携して、住宅団地の将来像について共有しながら、官民一体となって地域経営の視点を持ちつつ取り組むことが必要である。

・   また、これまで、住宅団地においては、歩車完全分離、豊かな植栽等外部空間構成など先進的・実験的な研究の成果が実現されてきたが、現在、都市郊外で急激に進む高齢化等への問題が先鋭的に現れており、今後の都市居住への対応を新たな知見を取り込みつつ先導して取り組むべき地域として、大学等との連携を進めることが必要である。

・    国はこのような産官学民が連携した住宅団地再生に係る取組を推進することが必要である。

 

3.若者・子育て世帯にとって魅力ある価値の創造を推進すること

・   住宅団地が「持続的なまち」への転換を図るためには、若者・子育て世帯などの転入を促進し、多様な世代が支え合う「まち」とすることが大切であり、この実現のために魅力ある「まち」として価値を高めていくことが必要である。

・   「まち」の価値を高めていくためには、単調な用途の広がる土地利用構成となっている現状に対し、例えば、女性・高齢者等によるくらしに密着したコミュニティビジネス等の起業、サテライトオフィス等働く場など、身近な場所で住民の多様な活動を受け止めることのできる多様な場づくりを進めていくことが重要である。

・   また、住宅団地には、開所当時、子育てに適した住宅や機能が充実していたものの、住民の高齢化及びこれに伴う需要の低下によりこうした機能が低下し、若者・子育て世帯にとって魅力がない「住宅・まち」が形成されており、住宅団地に若者・子育て世帯の転入を促進する必要がある。

・   具体的には、リフォーム等を通じた陳腐化した住宅の質の向上、住宅の循環利用の促進、空家等を活用した子育て支援に資する生活支援施設の整備促進などのハード面の取組と地域コミュニティを通じた子育て機能の再生などソフト面の取組を推進することが必要である。

・   さらに、住宅団地において増加している低未利用地等について、有効活用するための仕組み作りも重要である。例えば、近隣住民等に利用価値がある土地について、低未利用地の所有者と利用希望者との仲介・マッチングを図り、その利活用を促す仕組みや、地権者が協働で公共的な空間を整備・管理するなど、身の回りのまちづくりを支援する枠組み等の整備を推進する必要がある。

・   このほか、住宅団地によっては、老朽化したマンションの再生も重要な問題となるため、マンション建替え等を円滑化するための環境整備をより一層推進することが必要である。

 

 

4.高齢者の住み続けることができる街への転換を促進すること

・     住宅団地は基本的に均質化したファミリータイプの住宅から構成されており、また、開所時の時代背景もあって、一人暮らしや夫婦暮らしの高齢者の生活を支える生活支援施設や交通機能の不足が課題である。

・     3に示した若者・子育て世帯の転入を促進する取組を進める一方で、現在、地域に居住する住民の大宗を占める高齢者は地域を支える立役者であり、疎かにすることは許されない。さらに、現在居住する高齢者は、住宅団地を育んできた地域コミュニティの核となる地域力向上のキーマンである。

・   このため、こうした地域に居住する高齢者が望む限り継続して住宅団地で居住できるよう、一人暮らしや夫婦暮らしに適した多様な住宅の供給、高齢者の交流や生活を支援する施設の整備や地域交通の確保、自動運転など最新の技術を活用した移動手段の実験的活用などの取組を推進することが必要である。

 

5.公的賃貸住宅団地を核とした地域再生を推進すること

・   公営住宅やUR賃貸住宅などの公的賃貸住宅は、住宅団地を構成する重要な要素であり、公的な主体が直接的に住宅団地再生の取組を実施可能であること、また、分譲住宅が併存する団地や隣接・近接する住宅団地を含めて再生に貢献できる観点からも積極的な取組が必要である。

・   現在、公的賃貸住宅においては、地域の福祉拠点化を目指して取組を進めているが、今後、より一層こうした取組を進めることが必要である。

・   UR団地においては、地域医療福祉拠点化の取組を進めているが、高齢者等にとっては、日常生活を支える見守り、生活相談、買物、移動等の支援や若年層も含めた地域での交流の促進が重要となることから、医療福祉施設等の誘致に加え、地方公共団体、民間事業者、NPO等との連携強化により、生活支援やコミュニティ形成の取組をより一層進めることが必要である。

・   また、URにおいては、「UR賃貸住宅ストック再生・再編方針」を見直し、高齢者等の居住の安定を確保しつつ、賃貸住宅ストックの再編を図り、リフォーム・リノベーションにより賃貸住宅を有効活用していくとともに、団地の建替等においては、地方公共団体等と連携し、地域の新たな核となるまちづくりを展開していく必要がある。