年度内の予算成立を目指し、今週も予算委員会が連日開催されています。来週は火曜日や金曜日の集中審議に加えて水曜日に地方公聴会が開催されます。私も派遣団の一員として愛知県に出張する予定です。
さて、2月10日の日米首脳会談を控えて、野党は「GPIFにアメリカのインフラ投資をさせることをトランプ大統領への手土産にするのではないか」と質しております。しかし、この主張は完全な誤りです。なぜならば、GPIFの投資先や投資割合は有識者からなる運用委員会の指針に基づき、GPIFの理事長が決定することが法律によって定められており、安倍総理も他の閣僚も具体的に何に投資させるかGPIFに一切指示できません。一国の首脳(安倍総理)が自ら指示できない事について、あたかも指示できるかのように他国の首脳(トランプ大統領)に約束することは到底ありえません。
もっとも、GPIFが独自の投資判断で今後アメリカのインフラファンドに投資することは十分にありえると考えます。我が国の保険財政は大きなリスクに直面しています。少子高齢化が進む中で、年金の積立金の運用効率を高めなければ、将来約束した年金額を支払うことができなくなるリスク(危険性)です。
そこで、日本の年金運用も、ハイリスク・ハイリターンの資産も含めて「分散投資」しながら収益率を高める必要に迫られています。ここで言うハイリスクとは、上記の「危ない」という意味ではなく価格変動幅が大きいことを指します。投資の世界では、ローリスクの商品はあくまでもローリターンです。ローリスクでもハイリターンといった都合の良い投資商品は存在しません。そして短期的には変動幅の大きい“ハイリスク”の商品でも長期で保有すればリターンが右肩上がりになることは過去の指標が証明しています。将来の年金支給の財源を確保するための年金運用は、こうした長期運用が可能です。
また、「卵は一つのカゴに盛るな」とのことわざがあるように、たとえハイリスクの商品でも価格があまり連動しない商品をバランス良く保有すれば、ポートフォリオ全体のリスク(変動幅)をおさえることができます。例えば、国内株だけで運用していれば、日本の経済が悪化した場合に丸々値下がりしてしまいますが、海外株(しかも、複数の国や地域)にも投資していれば、日本経済が悪化してもその影響をおさえることができます。これを分散投資の原則といいますが、GPIFが国内外の株式の運用割合を高めるのも、オルタナティブ投資の投資枠を増やすのもこの原則に則ってのものです。そのなかで、世界最大規模の経済であるアメリカのインフラに投資するのは十分あり得ることであり、それに「投資するな」という主張のほうが、かえって年金の保険者の利益を損ねるものではないでしょうか。
オルタナティブ投資といっても、伝統的な投資商品以外のものを広く含むという意味であり、その中身も非上場株、不動産、インフラなど多岐にわたります。投資家にも専門的な知識を求めるような非常に複雑なものも含みますから、GPIFに果たして的確なオルタナティブ投資を実施する判断力があるのか、リスク管理は大丈夫かなどの指摘は考えられます。しかし、インフラ投資それ自体が危ないとの野党の誘導(株式投資も野党は同様の主張を繰り返していますが)は保険者の利益にもなりませんし、また国民が資産形成をする際に間違った認識を植え付けることになり兼ねません。年金制度を国民にとってより安心できるものにするためにも、与野党ともに冷静な議論が望まれます。
(※)図表は過去の日本の金融指標を基に安定資産の定期預金で運用する(A)よりもリスク資産で運用した方(B)が長い目で見て収益率が高いこと、そしてそれよりも国内外に分散運用した方(C)が高い収益率があげられることを示しています。