ビットコイン取引所最大手Mt.Gox社の破綻がメディアを賑わしています。同社の破綻により300億円を上回る価値のビットコインが消失したとも言われています。ビットコインは世界中で流通が拡大している、インターネット上の仮想通貨です。ネット上の操作により、金融機関を介さずにユーザー間で直接決済が可能になるほか、物販サイト・サービス提供サイトや一部の実店舗でのビットコインの利用も広まっています。

 

ビットコインによる最初の取引は、10,000BTC(当時の価値で約4,000円)とピザ2枚だったと言われています。その後、キプロス危機時の資産逃避先や中国における政府が関与しない自由な通貨としてのニーズが高まり、価格が上昇(図表)。最高値の時には1BTC1,242ドルとなり、その価格の時に上記のピザ代金を円に換えれば12億円を超えるため、史上最も高いピザと呼ばれるようになりました。

 


ビットコインのチャート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通常の資金決済は金融機関や中央銀行等の特定の運営主体が記録します。AさんがBさんの口座に送金した場合、全銀システムや日銀システムにその取引が記録されます。この取引を正確に記録・保管するために、巨大かつ高額なシステムが構築されています。他方、ビットコイン取引の信憑性は特定の主体ではなく、多数のユーザーが「検証」することにより担保されます。最初に取引の「検証」に成功すると、そのユーザーにビットコインが対価として発行されるため、不特定多数のユーザーが自発的に「検証」を行い、そのシステムの監督を行うわけです。この点こそ、ビットコインの送金為替が通常の通貨より安く行える理由です。

 

それでは、ビットコインは、通常の通貨を代替する「金のなる木」になりえるのか?あるいは、インターネット上に咲いた「あだ花」なのか?残念ながら、現時点では金のなる木になることは難しそうです。
 

通貨は「価値尺度」、「交換手段」、「価値保蔵」の3つの役割を果たします。図表の通り、ビットコインの対ドル交換レートは乱高下しており、ビットコインを通貨のように価値尺度や価値保蔵の手段にすることは現実的ではありません。通貨はその価値を安定させるため、中央銀行が貨幣の供給量をコントロールしますが、ビットコインにはその機能は内在していません。最終的な総発行量(2100BTC)に向けて逓減的に流通量を増加させるだけです。

また、貴金属等の投資商品として捉えた場合も、ビットコインは実物としての最終的な価値が無い(貴金属のように宝飾品として売買できない)ので、バブルが弾けた後でも底値を維持するような力がありません。


 ロシア、中国、アメリカ等では、ビットコインに対する規制が始まっています。また、ドイツや北欧では、ビットコインを資産とみなし換金時に課税しています。一方で、日本国内では、ビットコインが、金融商品取引法、資金決済法、犯罪収益移転法などの金融関連諸法令の規制対象には該当しておらず、これから、投資家保護や犯罪防止の観点から法整備の議論が進展していくものと思われます。

 

ただし、ビットコインは、これからの社会が進むべき方向性(金のなる木)を示している面もあります。それは、これまで中央集権的な主体(中央銀行や金融機関等)が担っていたことを、P2P等のネット技術の発達により、不特定多数のユーザーで代替できる可能性です。これは、クラウドファンディングやクラウドソーシングにも似た側面があります。その場合、政府の対応もまた変えなければならないということだと思います。主体がはっきりしていれば、その主体を監督し取り締まれば良いのですが、国境を越えた不特定多数が参画している場合はその監督や取り締まりも容易ではありません。

仮に、ビットコインが更に拡大し、その監督の必要性に迫られた場合は、そのような新しい時代の政策対応が求められることになるのかもしれません。