前回に続き、法人税減税の是非を論じます。

 法人税の実効税率を下げれば、日本企業は国内に戻ってくるのか、あるいは、外国企業が日本に進出するのか。諸外国と比べて高い日本の法人税が日本企業の海外移転を後押ししてしまっている、さらには外国企業の日本投資を阻害しているとの議論も良く耳にします。しかし、最近では日本企業が海外へ進出する理由は「コスト削減」などの消極的な理由から「新たな市場を獲得する」といった積極的な理由が近年増加傾向にあるそうです。実際に海外に展開している企業に理由を聞くと、74%の企業が「当該地域での需要の増加」を挙げているのに対し、「国内法人税等の税負担が重い」を挙げた企業は僅か4.3%です(JETRO調べ)。景気の低迷や人口減少により日本の国内需要が低迷する一方、経済成長や人口増加によりアジア地域の需要が増加した結果、日本の企業が消費地である外国に拠点を移したのだとすれば、法人税を下げても下げ損に終わる可能性は高いと言えます。

 他方、海外の企業から見ると、日本は、ビジネスコスト(人件費、税負担)の高さ以外にも、市場の閉鎖性や特殊性(行政手続きが複雑、規制・許認可が厳しい、欠損金の繰越期間が短い)、人材確保の難しさ(給与水準が高い、英語でのビジネスコミュニケーションの困難性、労働市場の流動不足)が課題として挙げられています。人件費、労働力の質、インフラ、為替レートなど、様々な要因から総合的に決まる国際競争力の中で法人税は一つの要因に過ぎません。海外企業の投資を日本に呼び込むことが出来ないのは、法人税のせいだけではありません。

 法人税を下げても、経済が良くなれば税収は増えるのか。法人税を引き下げたとしても、投資が拡大し経済が活性化されれば、税収減を相殺しうるという主張をする人もいます。しかし、赤字企業は法人税を納める必要がなく、現状では国内企業の実に7割超が法人税を払っていません。税収ベースで見れば、法人税を払っている企業のうち資本金1億円以上の大企業は65%、中小企業は35%。中小企業のうち法人税を払っているのは社数ベースで27.4%、払っていない会社は72.6%です。そのような中で法人税を引き下げることによるプラスの経済効果は限定的との見方もあります。他方、法人税を仮に30%まで引き下げれば、2.4兆~3.2兆の減収となります。
 
 日本で法人税が最も高かった1984年は地方税を入れると50%を超えており、それ以降は下がり続けています。この間、日本経済は減税により刺激されるどころか停滞し続けたままです。経済学の理論上は法人税減税の分だけ労働者の分配が増えると言われていますが、この間、日本の労働者の所得も減少し続けています。

 では法人税減税の代わりに何をすれば良いのか、次回に続きます。

小倉まさのぶのブログ-法人税収