昨年の「税と社会保障の一体改革」の議論の中で、相続税の課税ベースの議論が出てきました。これまで、5,000万円+1,000万円×法定相続人まで認められていた基礎控除を3,000万円+600万円×法定相続人まで引き下げる(課税拡大する)という議論です。もともとは民主党案でしたが、今回の税制改正では、これを自民党として実行に移すか大きな議論となりました。

相続税には「逆地域間格差」が存在します。相続税は地価評価額を基準に課税されるので、相続税収は東京が突出して多く全体の3割を占めています。地価の高い東京はその他の地域と異なり、大邸宅でなくとも課税対象となってしまいます。データでみると、全国的には相続人25人に1人しか相続税を納めていませんが、東京では10人に1人、さらに中心区では5人に1人が相続税を既に納めています。所得と関係なく課税される消費税導入と引き換えに、富裕層の課税も強化する方策としてこの相続税の課税強化が検討事項に上ったものと思われますが、東京(首都圏や地方の中心地)をみると、相続税は決して富裕層に限って課せられる税金とは言えません。このまま済し崩しに相続税の課税強化を認めてしまえば、額に汗して住宅ローンを返済し漸く手にしたマイホームも、子供や配偶者に引き継ぐことが出来ずにお国に取り上げられてしまうことにもなります。自民党が主唱する「一生懸命働いた人が報われる社会」とも矛盾しています。

この件については、自民党の東京選出議員が一丸となって働きかけを行いました。残念ながら基礎控除の引き下げ自体は阻止できなかったものの、東京からの訴えが奏功し、東京の住宅事情に配慮をした小規模宅地の特例が大幅に拡大されることになりました。相続税免除される居住用宅地の拡大(72.6坪→99.8坪)、事業用宅地との完全併用や、同居要件の緩和(これまで二世帯住宅や相続人が老人ホームに入居している場合は適用範囲外でした)などです。これにより、親族にマイホームを相続する際に、今回の課税拡大の影響は大きく減殺されることになりました。

※試算例を以下でお示しします。
多摩地域の居住用の敷地(330㎡@15万円)+その他財産3,000万円の場合(相続人は子1人)
【現行】
基礎控除:6,000万円 控除後:0万円 税額計:0万円
【相続税見直し後】
基礎控除:3,600万円 控除後:1,470万円 税額計:171万円
【小規模宅地特例の見直し後】
基礎控除:3,600万円 控除後:390万円 税額計:39万円

今回の件で分かったことは、東京選出の自民党衆議院議員だけで26名(全体のおよそ10分の1!)いるものの、東京の声が国政に届き難くなっているということです。選挙を通じて選出議員が目まぐるしく変わってしまう、地元が近いため会期中も永田町にべったり居るわけにはいかない、という事情もあるのかもしれません。「国会議員は国のことをやるのが仕事だから地域の声を代弁しなくて良い」という声もあります。全ての国会議員が選挙区を考えた発言を行わないという現実離れした前提条件が正論でしょう。しかし、現実は、ほぼ全ての国会議員がそれぞれのお国事情を訴えるわけですから、その中で一切地元の声を訴えない議員がいれば、その地域が不利になるばかりです。各地域の主張を国会でぶつけ合い、その中で妥当な結論を探っていくのが民主主義プロセスだと思います。また、私が政調部会や委員会における発言を聞いていて、説得力があるのはやはり議員自らが地元で見て聞いた生の声でもあります。今回の件に限らず、東京選出の議員のひとりとして、(もちろん我田引水の利益誘導はしませんが)都市部・地方どちらか一方にしわ寄せがいかない、バランスのとれた国政運営を実現して参りたいと思います。