手術室に入ると大きなギラギラした照明器具が消灯された状態で天井から吊り下がっています。麻酔科チームに、その照明下のベッドに横たわるように言われます。事前に研修医の先生が注射をしても良いかどうかの同意を求められており、私は同意していました。昨日、私の病室に来られた若い研修医が2度失敗した後、上級医に代わって無事に点滴が入りました。私はそのことはまったく気にならなかったのですが、後日母に話すと「私は失敗されるのは絶対にイヤ」と言っていました。人それぞれですね。それよりも、首のあたりにエコーを当て、右肩の末梢神経ブロックの位置を探り当てるのが難しくて時間がかかるものなのか、上級医の「これかな?」「それとも、こっちか?」「やっぱり」との不穏なつぶやきが私の耳元で聞こえ、研修医の失敗などとは比較にならないほど、不安な気持ちにさせられました。


 麻酔科チームが奮闘している間、整形外科チームの先生方は部屋の隅の方で雑談していました。知り合いの誰かが家を買う話。しかも、私が唯一聞き覚えのある主治医の先生の声で、私の自宅と実家に近い駅名が聞こえ、とても興味をそそられました。私は身体にメスが入る直前という生命の危機的状態で、雑談に興じる先生たちの話に耳をそばだて「まさか私に聞こえているとは彼らも気づくまい」と内心ほくそ笑んでいました。しかし、そのすぐ後に麻酔科研修医の先生が私の口元にマスクを当てたところで意識が落ちました。


 患者はビーチチェアに座った状態で手術を受けるそうです。頭には不織布の使い捨てキャップ、口には麻酔の管が入り、格闘技で使うフェイスプロテクター的なのもので顔が上向きに固定されると聞きました。上半身には心電図の電極、下半身は尿管カテーテルとオムツ、着圧ハイソックスにマッサージ機。とてつもなくシュールな格好で手術するのだな、と思いました。

 手術室に入った時、ビーチチェアを一眼見たいと思ったのですが、見つけられず、残念!