2008年7月・熊本旅行(4)
- キハ58「観光列車あそ1962」の旅 -
ホームに入線してきた「あそ1962」。ドアが開き、早速中へと入る。
車内は向かい合わせのボックス座席がズラリと並ぶ。座席自体の大元の形・骨組みはオリジナルのキハ58のものをほぼそのまま使っているが、モケットの柄は全く異なったものになり、また、手すりが木製の温かみのあるものへと取り替えられている。床も一面木の板張りだ。
モケットの柄やカーテンのカラーなど、車内の雰囲気がキハ58と28とでは微妙に異なっている。左側の写真が28、右側が58だ。
ちなみに今回、僕の座席はキハ28側。どうせなら2エンジンの58側の方が音が楽しめそうで良かった気もするが、でも28の方が貫通幌があって見た目がカッコイイからまあイイか。
ボックス座席の真ん中には木製の大きなテーブル。ここでお弁当や飲み物を広げたり…グループでワイワイやるのに楽しそうだ。まあ俺は独りですが何か。
天井には扇風機。そしてクーラーもオリジナルのままで残っている。照明はオリジナルの蛍光灯に、上に鉄網の様な変わった形状のカバーをかぶせてある。この辺りの天井周りの造作が、後日乗ったキハ40改造の「いさぶろう・しんぺい」や「はやとの風」辺りと較べるとややシンプルと言うか、あまり手を加えていない感じなのだが、この「あそ1962」のコンセプトは昭和30年代と言うことらしく、やり過ぎ・懲り過ぎなレトロ調インテリアよりはこの位の方がリアルな雰囲気が出て良いのかもしれない。
荷物棚は文字通りの「網棚」。しかもその網が、金網などでは無く、太い糸と言うか紐と言うか縄の様なもので出来ている。
洗面台・トイレもレトロ感バッチリ。ただ、外見はかなり凝って作られているこの洗面台&トイレ。実は中身はほとんど変わっていない。それはそれで「本物の昭和30年代感」があって悪くは無いが、今のこの時代。せめてトイレは洋式の使い勝手の良いものにした方が良かったんじゃなかろうか。観光地を走る列車と言うことで、外国人の客だっているだろうし。
ここが自転車持込場所ともなるフリースペース。誰でも自由に使える。乗車記念のスタンプが置いてあったり、車内販売が行われるスペースでもあったりする。
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10時12分、「観光列車あそ1962」はゆっくりと熊本駅を出発する。車内の乗車率は40%~50%くらいか。もっと満席かと思っていたがそんなことは無く、ゆったりとくつろげる。ちなみに僕のボックス席は乗客僕独り。と言うことで足を伸ばしてのんびり。
列車はしばらく熊本の市街地を走って行くが、しだいに田園の中へと入って行く。
途中、肥後大津の駅あたり(もっと前の方の駅だったかもしれないが)から、車内販売が開始される。フリースペースにて、飲食物やグッズ類の販売を行います、との車内放送が流れる。ワゴン等での車販では無く、フリースペースに出向いての販売と言うのがちょっと変わっている。
乗車記念にグッズ類を購入。グッズは全5種類。バッジや携帯ストラップ、キーホルダーなど。それにスタンプ台紙ともなる「あそ1962」のパンフレット(これは無料)。更にこの日は、もうすぐ「あそ1962」が生まれて2年になると言うことで、その記念にステッカーを配っていた(これはお姉さんが席を回って一人一人に配ってくれた)。
それと地ビール。僕は列車旅で飲む酒が好きなのだが、しかしここ数年、自分の好きな旧型気動車の車内では飲まない様にしている。と言うのも、大好きな気動車だから、酔ってしまうのが何か勿体無い様な気がする、と言うか、その気動車に大して失礼、と言うか…。
なのだが、今日は別。せっかくの楽しい旅。それに旧型気動車とは言え、この「あそ1962」は消え去ってしまう車両じゃあない。観光列車として、阿蘇の、豊肥本線のイメージリーダーとして、今後もきっと末永く走り続けてくれるハズだ。(希望) そんな前途と未来への展望に乾杯!!
…と言うか、実のところ。ただぼんやりと座っていると、色々と物思いにふけってしんみりしてしまうのだ。キハ58が元気で走っている、そのキハ58に揺られている。それが嬉しくって…。でもこのキハ58、もう日本全国探しても本当に数少なくなっているのだなぁ。そう考えると寂しくて。
だから飲む。テンションを上げる為にも飲む(笑)
この地ビール、阿蘇は黒川温泉の方で作られている地ビールで、ペールエールと言うタイプのビール。日本のビールの主流となっている、いわゆるピルスナータイプとは全く異なる味わい。フルーティでコクがあり、とても美味しい。
車販スペースには、「あそ1962」のロゴと乗車日付の入った、記念撮影用のプレートが置いてある。せっかくなので客室乗務員のお姉さんに頼んで撮ってもらった。
年甲斐も無く車掌帽までかぶってみたり(苦笑)
さすがに「観光列車」と謳っているだけあり、この辺りのサービスは本当にしっかりとしている。僕が撮ってもらっているその様子を見ていた別の客に、お姉さんは「お撮りしましょうか?」と声をかけていたり、また、後になってこのプレートを持って車内を回ったりもしていた。
11時15分、列車は立野の駅に到着。立野出発は11時36分。実に21分もの停車時間がある。
この停車時間を利用して、近くにある、南阿蘇鉄道の鉄橋を見学に行くことも出来る。実際、客室乗務員のお姉さんが何人かの客を案内して連れて行った。僕は見には行かない。なぜなら、後ほどこの南阿蘇鉄道にも乗る予定があるからだ。
また、この駅のすぐそばには名物の「ニコニコ饅頭」を売っている店があり、この「あそ1962」の停車時間に合わせて駅ホームにも売りにやって来る。せっかくなので一袋(6個入り)を購入。
饅頭は出来たで熱々で、中にはたっぷりと餡が詰まっていて美味い。
立野はスイッチバック駅。しかも珍しい、3段式のスイッチバックと言うのを繰り広げる。立野を出た列車はまず、それまでの進行方向とは逆に進み、ある程度勾配を上った時点でもう一回スイッチバック。更に進行方向を変えて阿蘇のカルデラの中へと入って行くのだ。
眼下には今スイッチバックで登ってきた線路が見える。
やがて車窓に広がる阿蘇の大パノラマ。青い空に白い雲。そして緑の大地と山々。見渡す限り大自然。この開放感がたまらない。夏だ!! 九州だ!!!とワケも無くテンションが上がる。
阿蘇の駅では、ホームにツキノワグマの子供がいて観光客に愛想を振りまいていた。近くの農場か何かから来たのだろうか。こんな「お出迎え」があったりするのもいかにも観光列車らしくて楽しい。
そして12時15分。列車は終点の宮地に到着した。
この「観光列車あそ1962」、乗車を終えて感じたのは、とにかく色々な意味で「凄い!!」と言うことだ。なんと言うか、JR九州マジック、いや水戸岡マジックの凄まじさの片鱗を見せ付けられた気がする。
あのキハ58を、内外装共に活かす部分は活かしながら、特に外装に関してはオリジナルのイメージを崩すこと無く、それでいて大胆なリニューアルを行い、単なる鉄道マニア受けでは無く一般の観光客にもしっかりとアピールの出来る、立派な観光列車として生まれ変わらせてしまっている。
キハ58と言う昭和30年代生まれの車両を用いて、「昭和30年代をイメージした」列車を造る。その戦略は見事ハマったと言って良いだろう。黒光りする車体もSLの様な昔の車両を彷彿とさせる一方で、実は現代の車両にはなかなか無い斬新なデザイン。まさに、 「懐かしくて新しい」新感覚のジョイフルトレイン。
列車と言う、いわば「ハード」の部分だけでなく、客室乗務員によるサービス-それはどこの列車でも行っている車販など一般的なものだけで無く、記念撮影の手伝いをしたり、観光の案内を行ったりと言った細やかな気配りを含む-や、途中駅での観光時間を兼ねた長時間停車と言った、「ソフト」面も充実している。こういった総合的な部分で、トータルで「鉄道の旅」をプロデュース出来ると言うのは、まさにJR九州ならではのことだと思う。
個人的には、こうしてこのキハ58と言う車両が、再び人々の注目を浴びる様になったことが嬉しい。駅に停車する度に観光客・地元客問わずたくさんの客の目がこの列車に集まり、幼い子供達の「あそ1962に乗りたいよう」と言った声もたくさん聞こえていた。
日本全国でその数を急激に減らし、今や風前の灯火となった感のあるキハ58一族。しかしここ阿蘇では、その古めかしい気動車が、(恐らくキハ58だと言う認知はされていないにしても)大勢の人々の注目を集め、歓迎されて走っている。こうして、一人でも多くの人の記憶にキハ58が残ってくれるのなら、そんな嬉しいことは無い。 心からそう思うのだ。














