都々逸〔江戸流行〕どどいつ/えどばやり
江戸で発展しはやった都々逸。
よしこの節・都々逸は天保の頃すでに短詩歌謡の定番になるほど人気を高めており、諸本に誰の作とも知れないものが現れては消えた。
【例歌】
どどいつ 雑載           
〽来てはちらちら思はせぶりな、今日もとまらぬ秋の蝶
〽嬉しまぎれについ惚れ過ぎて、あとで猶ます物思ひ
──都々逸、江戸後期作の雑載、『明治流行歌史』
[メモ] 出典に「扇歌どゝ一節佳作」とある。扇歌は都々逸節の始祖であるにもかかわらず、自らの作品はきわめて少ない。この二作はさすが傑作、肩の力を抜いた自然体で情実を見事に吟じている。

坊扇歌ガイド 茨城県常陸太田市
〽あきらめましたよどうあきらめた、あきらめきれぬとあきらめた
〽まゝよ三度(ど)笠(がさ)よこちよにかむり、旅は道づれ世はなさけ
〽おかめ買(かふ)奴(やつ)、天窓(あたま)でしれる、油付けずの二つ折(はやし)其奴(そいつ)は殿(ど)奴者(いつじや)〳〵
──『守貞漫稿』巻二十三
どゞいつ節 どどいつぶし
〽灰に書いては消す男の名、火箸の手前も恥かしや
〽人の手前は手管と見せて、実に惚れたで胸の癪(しやく)
〽一筋とばかり思ひしあの朝顔も、いつか隣へ隠れ咲(ざき)
〽御声はすれども姿は見えぬ、ぬしは草葉のきりぎりす
〽山で伐る木は数多けれど、思ひ切るきは更にない
〽主のたよりと門(かど)打明けば、又も水鶏(くゐな)にたたかれて
──都々逸、江戸後期作の雑載、『小唄の衢(ちまた)』
[メモ] 「どどいつ節」は初代扇歌が命名した呼称で、安政頃はまだ「よしこの」の名のほうが通りがよかった。
どゞいつぶし 
〽なにをうろうろはて下にゐや、おれも男だ胸にある
〽よしや川辺のわしや花いかだ、こがれあこがれ日をおくる
〽浮気鶯梅をばよそに、泊りあるきの桃(もも)桜(さくら)
〽かんだうされても三味線まくら、親のばちかや三下り
〽あのやよしつねさんは、めつそふに身軽な義経さんで、舟を一さう二さう三さう四さうひよいひよいと八さうとび
 *字余りの異体吟。吟詠会などで余興に作られることがある。
〽ふつと目がさめ拍子木の音がするから、こいつはまたどこぞに芝居でもあるかと出て見りや時まはり
 *前傾に同じ。わざと稚拙に作ってみたのだろう。
〽朝がほのからむ竹をばひきはなされて、うつむきや涙の露が出る
*上句(五七七)は字余り。
〽なまじやさしい三つ葉のまよひ、しよてからじやけんなら惚れやせぬ
〽あややにしきの風吹くとても、なびくまいぞへいと柳
〽うらみますぞよ出雲の神も、そはさざたにんでおくがよい
〽はる雨(さめ)にふつと目がさめ聞くつめ引(びき)に、おもはずぬれるまくら紙
〽あさ原のよれつもつれつもつれつよれつ、すえはほどけぬ中となる
 *上句字余り。
〽垣越しによその桜を散らせしばちか、今の苦労は心がら
〽ちる花を定めなき世と歌にも詠めど、咲かざなるまい春のかぜ
〽おもふほどおもふまいかとはなれて居れば、ぐちなやうだが気がもめる
〽二世もかはらじ三世もかけて、おもひながらもこちの人
〽逢はれないとて女の情を、たてゝ見せませうあくまでも
〽運は天にある、ぼたもちや棚にある、栗柿は木になる、そして又いろ事は互ひの胸にある
〽思ひきらんせ木登りをさんせ、落ちて死なんせわしや知らぬ
〽紫は、着ては立派でをしだしやよいが、なぜかぬしに似てさめやすい
〽かねと紫はお江戸でできる、むらさきはさめてもきがのこる
〽たとへわたしがわるいにさんせ、おぶやだかろとぜつにかけ
〽今朝も二階で柱があたま、あいたかつたと目に涙
〽ほととぎす、そなたばかりが今朝きぬぎぬの、つらい別れはわしも泣く
〽おびとおびとのびやうぶを見せて、すえはかうじやとこもちずし
〽およびない身はつれない松に、降るも甲斐なきむら時雨
〽たまに二人で出ようとすれば、老まつ天にはかにかきくもり、大雨(たいう)しきりに降りしかば、マア空にもむね気があるものか
〽かべてこのごろいはんすことの、なさけまじりのきれことば
〽やがてかねつけおとなしづくで、わたしや内証のほかのつま
〽人もほめますわたしもほれた、たまにきづなは女房もち
〽おやもとくしん此身も承知、とかく年季がじやまになる
〽三全世界にたでくふ虫が、なけりややもめでくらすもの
〽おこしやかんしやくおこさにや眠る、たまにあふのにヱヽじれつたいねえ
〽ふりのよいのは五町の桜、あれもよし野の山そだち
〽なにばかな、人にじやうずがなにいるものか、ながく此(この)町(ちやう)にゐるじやなし
〽硯箱、またも取り出しなみだとともに、やせるまき紙さつさんせ
〽鳥が啼きや、そなたまでなきおりふさがせる、さほどかへすがいやなのか
〽世につれて、うきかんなんはいとひはせぬが、かはりやせぬかとあんじられ
〽なくもふさぐもじれるもおまへ、きげんなほすもまたおまへ
〽ぎり立てしては恋路はやみ夜、ほれりやたれしもむふんべつ
〽うたゝ寝のかほに見とれて枕にもたれ、くらうしてもよいと一人ごと
〽世につれて替はりやすきは皆人心、よもやと思ふてそなたまで
〽鳥なれば近くの森に巣をかけおいて、こがれなくのを聞かせたい
〽たしなめと、いつておくのになぜあさはかな、そなたのぐちゆゑたつうき名
〽いさむ中にみひとりでふそぐ、なぜといはれてにがわらひ
〽すみ染衣と身は定めたが、またもそなたにひかされて
〽おたが日に知れ地やならぬとつゝしむけれど、悪事千里で人が知る
〽屏風引きあけたもとにすがり、ぬしはそのままかへるきか
〽はらは立てどもまた分け聞けば、のろいやうだがさうかいな
〽腹が立つならなぜ沸けいわぬ、ないてうつむきやわかるのか
〽妹背山(いもせやま)にはおとりしことよ、文もやられずかほも見ず
〽そふ事扨おきあふ事さへも、ならぬこの身じやさつさんせ
〽はやくおまへを親にもあはせ、末をたのむといはせたい
──都々逸、幕末作の雑載、『明治流行歌史』
YOU TUBEを友に
都々逸 まゝよ三度笠 *柳家三亀松