江戸端唄 えどはうた
文化・文政期(一八〇四~一八三〇)の江戸で円熟した、演奏時間一~三分程度の三味線小品歌曲を〈江戸端唄〉または単に〈端唄〉という。のち「歌沢」や〈小唄〉を生み出した母体でもある。発祥は〈隆達節〉とするのが定説である。
長唄などのように劇場や花街用の音曲とはいささか異なり、江戸端唄のほうは家庭でも気軽に口ずさめる庶民性が受けた。

江戸端歌は現代でも人気筋〔美空ひばり唄、コロンビアシリーズSP盤〕
【例歌】
梅にも春 うめにもはる       藤本二三吉唄
〽梅にも春の色添へて 若水汲みか車井戸 音もせわしき鳥追や 朝日に繁き人影を もしやと思ふ恋の欲 遠音神楽や数取りの 待つ辻占やねずみ啼き 逢うてうれしき酒(ささ)機嫌 濃茶ができたら上りやんせ ササ持つといで
──江戸端唄、江戸後期作、『江戸端唄集』
秋の野に あきののに        桃山晴衣唄
〽二上り「あきの野に出て七草見れば サアヤレ「露とこづまがみなぬれる サアヨよしてもくんなおにあざみ
──江戸端唄、江戸後期作、『江戸端唄集』
めぐる日 めぐるひ
〽めぐる日や。はるが近いとて老木の梅が 「わかやぎてそのしほらしや〳〵「かほりゆかしと「まちわびかねて「さゞなきかけるうぐひすの。きてはざこ寝をおこしつゝ。さりとは気みじかな。今帯しめていくわいな。ほうほけきやうの人さんじや。
──本調子端唄、『粋の懐』初篇(文久二年)
[メモ] 鶯は「ほうほけきょう」と啼くことから、経よみ鳥の異名がある。これで〆がだんぜん生きてくる。
われが住家 われらがすみか
〽われが住家はかくれ里、猫が三味ひく鼠がうたふ小唄の面白や、それを思へばやつこらさ、浮気思はくさゝ船にのせて、楫をまくらに寝てこがりよしよんがえ
──江戸端唄、江戸後期作、『江戸小唄の話』
[メモ] 身近な動物達には唄をうたわせるという、童話風な発想が楽しい。
江戸端唄〔雑載〕 えどはうた/ざっさい
〽小町おもへば照る日も曇る「四位の少将が涙雨九十九夜さでござんしやう仰せにおよばずそりやそふでのふてかいな御所車にみすをかけたかへこちやそとばに腰かけたヱヽヱヽばゝじやエ。(本調子)
〽待乳しづんで新地のはなよ同じはなれぬ浪枕しんに逢ふ夜は身にしみ〴〵とこゝが苦界じやないかいな。(本調子)
〽花の曇か「遠山の雲か花かは白雪やなかをそよ〳〵吹「春かぜにうきねさそふやさゞ浪の「爰はかもめも都鳥扇拍子のさんざめくうちやゆかしき内ぞゆかしき。(本調子)
〽我しがサ国さで見せたいものがむかしや谷風今伊達(だて)もやうゆかしなつかし宮城のしのぶ浮れまいぞへ松島辺(ほとり)しよんがへ。(二上り)
〽雪は巴に降りしきる屏風を恋の中立で「てふとち鳥の三ツ蒲団「もと木にかへるねぐら鳥まだ口青いじやないかいな。(二上り)
──江戸端唄、江戸中・後期流行、『江戸端唄集』